23話 ページ24
緊張からなのか、呼吸が浅くなる。
……らしくない。
勢いよく息を吐き顔を上げる。
「A」
『……うん』
街の喧騒も、今の俺の耳には入らない。
自分の呼吸だけが、大きく聞こえる。
「好きだ…」
『……ぇ、』
目の前でピタリと動きを止めたA。
怖気づきそうになる自分自身を逃がすまいと、グッと体に力を入れる。
「いきなりだと言うのは分かっている。
でも、今伝えるべきだと思ったんだ…」
『………』
言って、正解だったのだろうか。
……いや、正解も不正解もないか。
「すまない…」
最近は答えの見つからない二択ばかりを迫られる。
逃げることが許されないことには、きっとそのうち慣れてしまう。
『…グルさん』
名前を呼ばれ、Aの顔を見れば、彼女はなんと言えばいいのか表現し難い表情をしていた。
口元はきゅっと閉じられ、困り眉にほのかに染まった頬、目が合ったと思えば逸らされ、どういう反応なのか分からない。
「ん?」
『ぇ、と、あの、…私も!!……わたしも、好き…です…』
そう言って途端に恥ずかしそうな顔をし、背を向けられた。
…好き、って、言ったよな?
マジか……。
夢なんかじゃ、ないよな。
「本当か…?」
『…うんっ』
「うそやろ…。信じられん」
『うそじゃないよ』
きっと気まづくなって、疎遠になって終わりだと思っていた。
始めから期待などしていなかったのに、俺の不安を軽々と越えて行ってしまったAの言葉。
胸が苦しくなるのは、これで何度目か。今回は、辛くはない。
「A」
『うん』
「これからもお前が自然体でいられる相手でありたい、隣にいたい。……俺と、付き合ってくれへんか」
『…はいっ!』
…ああ、やっぱり、俺はその笑顔でないと落ち着けない。
辛そうな顔も、悲しそうな顔も、ウソの笑顔も好きじゃない。
どうか俺の隣で、変わらず笑っていてくれ。
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作者名:煽田 -アオタ- | 作成日時:2022年6月19日 21時