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Fside
「…また痩せたね。あんまり食べられない？」
腕で包む体が明らかに一回り華奢になっていた。
宏光は声を出さず、俺の肩の上でこくりと頷く。
「そっか…」
「食べようと思えば、食べられるけど」
「…うん」
「戻すから、」
「今日は何か食べた？」
宏光は横に首を振ると、アルバイトの前は特に食べることができないと教えてくれた。
俺が一緒に入っている日は、できるだけ近くにいるようにしているが、それでもアイツは来るし、俺が居ない日は近くにいる人もいない。一度あんな怖い思いをしたから、恐怖で食べ物が喉を通らなくなってしまったんだろう。
「キッチン借りてもいいかな？」
「いーよ。使いたい物あったら使って」
「薬局も行きたいから、ちょっと待っててね」
青白い顔で口数も少ない宏光に、気を付けてねとわざわざ言われ、思わず離れたくなくなったが耐えて素早く用事を済ませた。
炊飯器に残っていたご飯と、冷蔵庫にあった卵とネギ、出汁も貰って簡単な雑炊を作った。薬局で買った薬と一緒に宏光の部屋へと運ぶ。
「ただいま。ちょっとでもいいから、食べられる？」
「…うん」
煉瓦でご飯を掬い少し冷ましてから渡すと、いただきますと小声で言った宏光がパクリと食べる。
「食べられそう？」
「おいしい」
「良かった。食べられるだけでいいから食べて」
今度は持ってきていたお椀によそって渡した。
宏光はそこから少しずつ食べてくれて、よそった1杯分しか食べられなかったけど、とても嬉しかったし、安心した。
「宏光さ、貧血だと思うんだよね。だからこれ飲んでて」
薬局で買った貧血に効く薬を渡した。受け取った宏光が俺の顔を見上げる。
「…これ、買いに行ってたの？」
「うん？そうだけど。あ…もう持ってた？」
「いや、色々…悪いなって」
「何言ってんの。そんなこと言うために体力使わなくていいから。薬飲んで休んで」
しまった水を持ってきていなかった、と台所へ水を取りに行った。コップに注いで部屋へ戻ると、宏光が残した雑炊を片付けようとなんてしている。
「ちょっと、そんなことしなくていいから」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないの。何のために俺が来たのさ」
薬飲んでと座らせ水を渡すと、2錠ゴクリと飲んだ。ちょっと飲みにくそうにして。薬、苦手なのかなと思う。
「明日、バイト代わるよ」
「…いいの？」
もちろん、と頭を撫でたらまた宏光は謝った。強がらないのは…意外だった。
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作者名：櫻弓 想
| 作成日時：2023年2月12日 23時
