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Kside
太輔のおかげである程度体調が回復した俺は、アルバイトにも復帰した。
復帰して初めのうちはまた恐怖で食欲も湧かなかったのだが…
アイツは、俺が復帰後スーパーに来なくなった。
もしかしたら辞めたと思われたのだろうか…。
そこから一度見ることなく、一ヶ月が経とうとしていた。
「おつかれ。今日も来なかった?」
未だ迎えに来てくれている太輔は、開口一番そうやって聞いてくれる。
「…うん、大丈夫だった」
「そっか!良かった」
俺は徐々に安心してアルバイトへ向かえるようになり、ご飯も食べられるようになっていった。普通で、幸せな日常が返ってきつつあった。
「太輔、帰りコンビニ寄っちゃダメ?」
「いいよ。行こっか!!」
今まで普通のことだったのに、俺が何でもない話をしながらアイスを食べているのを、太輔はすごく嬉しそうに見てくれた。
俺の家に太輔が看病をしにくることもなくなり、恒例のお泊まりには俺が毎週末、太輔の家に行った。その時もご飯を食べるだけで、太輔は嬉しそうにした。心配かけたんだなと心底申し訳なく思った。
自分のためにも、太輔に心配をかけないためにも、友達と出掛けるのは控えていたのだが、体調も完全復帰したしアイツも見ないし、大丈夫だろうと大学の奴らと飲みにいく約束をした。もちろん太輔に許可も取った。…しかし。
「帰ってくる電車の時間教えてね」
「…え、なんで?」
「迎えにいくから。心配じゃん」
太輔は、なんてことを言い出した。
「いや、いい!いい!もう大丈夫だろうし、わざわざそのためだけに駅まで来させるなんて悪い。どうせ終電だから」
「終電なんて余計危ないじゃん。俺が不安だから迎えに行かせてよ」
「…えぇ」
散々迷惑も手間もかけたのに、太輔が関与してない予定へ行くにしても迷惑かけるのか…と、さすがに気が引ける。
「別にそのままその日は俺の家泊まりに来たらいいじゃん?」
「んー…わかった」
「じゃ、連絡してね」
と、一度了承したが、結局どうしても夜中にわざわざ迎えに来させることへ気が引けた。でも、きっと太輔は折れない。
そこで、やっぱり飲みの後に友達の家に泊まらせてもらうから、次の日の昼にこっちへ帰ってくると太輔に伝えた。もう、大丈夫だろうと考えた俺がついた嘘だった。
未だに、太輔と一緒に外を歩いている姿も、コンビニで駄弁っている姿も、ずっとアイツに見られていたなんて
全く想像していなかったからだ。
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作者名:櫻弓 想 | 作成日時:2023年2月12日 23時