飛蝶 - 最愛の人 - (ページ39)

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『望、Aと二人にして』

初めて来た時と同様、二人きりになれば、机に置かれた一枚の紙。

『あいつにサインさせた』

「…あいつ、？」

『見たらわかる』

その紙は私がサインしたはずの返済書で…

そこに私の名前は無く、元彼の名前。

「どうやって」

『望が見つけた。Aを理不尽から解放して欲しいって』

私がそもそもここに来る事になったのは、元彼の借金が原因で。

返す必要のない人が働いて、本人は呑気に生活してる。

それが、理不尽であり間違いだと小瀧さんが証明してくれた…

『これでAがここで働く理由が無くなった。いつでも出て行ってええから。』

また、急に突き放されるような選択…

突然のことに理解が追いついてないけど、

『家は戻れるよう手配した。職場も前のまんまや。仕事はAが望めばやけど』

淡々と話す彼を目の前に、私はただ聞くことしかできなくて。

後悔も寂しさもなく、何かから開放されるってこういう気分なんだ…

また、無駄な時間を過ごした気がした…

私がここに来てから今日の日まで、人生で一番あっという間に過ぎて。

怖い思いも、色んな体験もしたはずなのに、覚えているのは貴方のキスだけ…

『…良かったな、元の生活に戻れて』

私を見る冷たい目に、あの日の乾いた音を思い出す。

彼が突き放したんじゃない。

私が先にあなたを突き放したんだっ…