君は誰のモノ？〈F.Taisuke〉 ２

色のない日々　１ ページ25

河嶋さんが部屋を出て行ってしばらくは動くことすらできなかった。

今…なんて…。
俺は何かしてしまっただろうか。
泣きじゃくる河嶋さんを連れて部屋に帰って、抱きしめて、手をつないで。

やっぱり伝わってしまったんだろうか。
俺が河嶋さんのことが好きで好きでたまらないってこと。

『恋愛感情は持たないこと』

あんなに昨日はそばにいるような気がしたのに。
あんなに昨日は無防備な姿で俺に寄りかかってくれたのに。
あんなに穏やかな顔をして腕の中で眠っていたのに。

いつも通りの笑顔だった。
会社であった時と全く同じ、櫻井部長や北山さんに向ける笑顔を全く同じ笑顔でさよならを言うなんて。
さっきまで冬なのに暖かかった部屋はあっという間に寒く感じて。
さっきまであんなに幸せな気持ちだったのに一瞬にして地の底まで落とされたような。


でも。


「行かなきゃ…」

重い身体を無理やり起こして会社に行くための準備をした。





会社のロビー。
自動ドアを開くと真っ先に見えるのは受付。
そこには、さっき俺の家で『もうやめよう』と言ったのとまったく同じ笑顔で微笑む河嶋さん。
昨日泣いていたなんてウソみたいに綺麗な顔。
いつも通り完璧な笑顔。
「おはようございます、藤ヶ谷さん」
にっこりと笑って頭を下げた河嶋さんの顔をまともに見ることなんてできなくて。
「…おはよう…ございます」
頭を下げてエレベーターホールに向かった。



結局、河嶋さんにとって俺ってなんでもない存在だったんだな…なんて一人ごちた。
別に俺たちは付き合っていたわけでもなんでもないし、ただ前の関係に戻るだけ。

「…ははっ…つれーなー…」

一人でいたら泣きそうで慌てて上を向いた。

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