ことのは

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「Aー、ご飯食べたい」
「ええー…何にも買ってきてないよ？」
「冷蔵庫とか冷凍庫にあるものでいいから適当に作ってよ」
同い年の宏光はテレビや雑誌で見ているとずいぶん大人っぽく、ずいぶん頼りになるふうに見えるけれど２人のときは妙に子供っぽい。
でもこうして甘えられるのも嫌いではないなんてどれだけ惚れてるんだろうと自分自身に苦笑しながら冷蔵庫を開ける。

「……予想通りね」

案の定ほとんど調味料しか入っていない冷蔵庫をあきらめて冷凍庫を開ければ。
「…ねぇ宏光、生姜焼きしかできないんだけど…」
「あ、ばれた？」
Aの生姜焼き食べたいから今日買い物してきてっていわなかったんだよねーとキッチンまでやってきて一緒になって冷凍庫を覗き込む宏光。
「ほら、きのこスープもできんじゃん」
「見事に私が来てから自炊してないってことね」
「だって俺苦手だもん」
知ってるだろ？という宏光にはいはい、と適当に返事をして、急いで流水で肉を解凍する。
冷凍庫をのぞけば冷凍ごはんもまだ残っていたし、前に冷凍したキノコとほうれんそうも残っていたから宏光の好きなきのこんぶスープとほうれんそうのおひたしを作って。
「相変わらずA手際いいのな」
カウンターキッチンの向こうからこちらをのぞいて笑う宏光。
「……なぁ最近、忙しかった？」
「……うーん、いつも通りよ？」
忙しくないと言えばうそになる。
でも宏光に比べれば忙しいなんて言えなくて。
「そっかぁ…Aはなんでもこなしちゃうからなぁ…」
「宏光はドラマとか、番組とか忙しそうね」
もちろん宏光からこまめに連絡はもらうけれど朝の情報番組でいろんな情報を知ることもある。
そのたびに宏光は国民的アイドルグループの一員なんだなぁなんて思い知る。


私と宏光。
出会うはずもなかった私たちの出会いは３年前のこと。
社会人になって５年目の夏、大学で同じゼミだった同期がちょうど結婚するからと久々に集まった飲み会に、中学時代にサッカー部で同期だったという宏光が飛び入り参加したのがきっかけだった。
アイドルだと我先に隣に座ろうとする友人や、まじかよ！と興味津々な目で見つめる同期の男子にも分けへだてなくアイドルスマイルで返す宏光をただ座敷の隅っこで見ていただけだった私。
結局、その飲み会ではその場の流れで全員が宏光とアドレス交換したけれどまぁ一生連絡はとらないだろうな、なんて思っていた。

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