ことのは

距離の縮まる９月〈side Y〉 ページ19

「じゃあこのクラスの出し物は漫画飯喫茶ということになりました」

9月。
先月あった追試はぎりぎりの点数だったけれどなんとか合格できた。
Aは自分のことのように喜んでくれて。
前はとっつきにくそうだと思ってたけど、打ち解けるとくるくると表情の変わるAはどこか太輔にも似てるなぁ…なんて思いながらだんだんと俺らは仲良くなっていった。
ガリガリくんは梨味よりもソーダ味が好きらしい、とか。
教室で勉強しているとたまに様子を見に来る北山先生のことがどこか苦手そうだ、とか。
あとはAが勉強を頑張っている理由が長期留学を目指しているからだということも。
そのあと席替えで隣になったAとは2学期が始まってから当たり前のように話をする関係になっていて。

「えっと…じゃあ係を決めたいんですけど、希望とかありますか？」

学級委員が黒板に文化祭の企画やその準備に必要な係を書き出している。
俺は野球部のほうでも屋台をやるからあんまり準備はできなさそうだなぁ…と思いながら黒板を見つめて、ある一つの係の前で目が留まった。
―メニュー考案係。
実は男のくせに…といわれそうだが料理は昔から得意な…いや好きなほうで、弁当も自分で作ることが多い。
メニュー考案なら家でじかんのあるときにできそうだし、面白そうだと手を挙げて。
「俺、メニュー考案係やります」
クラス中が一斉に俺をみたけど、かまわず続ける。
「あと…Aも一緒にやりたいそうです」
「えっ私？」
びっくりしてこちらを見上げるAににやりと笑って、Aも大丈夫だそうですと学級委員に笑顔で告げる。
「えー…じゃあメニュー考案は横尾くんとAさんにやってもらうということで…」
その後次々に係を決める間、隣からのじとーっとした視線を感じながら、なんだかおもしろくなりそうだと思っていた。





「ちょっと横尾君、さっきのなに？！」
「いーじゃん、俺料理得意だし」
「そういうことじゃなくて！」
なんで私？とこちらをにらむAにいいじゃん、俺ら仲良しだしと軽く返す。
「今日さ、部活ないんだけど俺んちでさっそく作ってみようよ」
「うー……もうちょっとでＴＯＥＩＣの試験なのに」
英語の能力試験？の試験日が近いから勉強したいのに、とぶつぶつ言うAをまぁまぁと引きずるように俺の家に帰って2人でいろいろ作ってみたりして。

……彼女が壊滅的な料理下手だと判明した、距離の縮まる９月。

○○の秋…な１０月→←巻き込まれた８月

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す