ことのは

デビューできない６月 ページ16

「ねぇねｌ今日さカラオケ行かない？」
「いいよいいよー」
「じゃあさ、いつものメンバー誘ってさ…」
クラスで繰り広げられる華やかな会話を映画雑誌を広げながらやり過ごす。
……ついていけない。
もともとが人見知りだからかなかなかクラスの輪に溶け込めないままもう６月。
すっかり周りには仲良しグループが出来上がってしまって、いまさら放課後遊びに行こうとは言い出せなくなってしまった。
「Aさんばいばい」
「あっ、ばいばい」
行こう、と教室を出て行った彼女たちを見送って一息。
カバンの中から最近いつも放課後に勉強しているＴＯＥＩＣの問題集を取り出す。
留学するなら今からやらないと、と誰もいなくなってから問題集を下校時間まで黙々とこなすのがここのところの日課だ。
携帯にいれたリスニング音源を聴くためにイヤホンを耳に入れて、問題を解いていく。

「…い、おいA」
「…っ……あ、先生」

結構な音量で聞いているから北山先生が後ろから近付いてきてるなんて全然気が付かなくて、思わず肩をびくりと震わせる。
「あ、なんか聴いてた？」
「えっと……」
肩越しに問題集を覗き込んで感心する北山先生と距離が近すぎると少しでものけぞって距離をとる私。
「…Aって俺の事苦手？」
「いえ……というか先生近いです…」
「あ、そういうことか」
いつの間にか顔がくっつくぐらい近くなってしまっていることにやっと気が付いた北山先生はごめんごめんと軽く謝って、私の前の席に座る。
「A、留学希望なんだっけ？」
「はい」
「すげぇなー、ちゃんと目標決めてコツコツがんばってるんだな」
中間も点数よかったもんなー、という先生は本当に先生っぽくなくて。
「なんかわかんないとことか、留学の事で悩みとかあったら相談しろよ」
「…先生、教科体育じゃないですか…」
「でっでも！相談くらいはのれるから！」
英語の宮田とかめっちゃ仲良いし！と必死でいう先生に思わず笑ってしまって。
「あ、笑ったなー」
「先生結構子供っぽいって言われません？」
「若者の心を忘れてないだけですー」


高校デビューがうまくいったとは言えない私に、意外な味方ができた、そんな６月。


→続きます

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