ことのは

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終電一本前の電車はちょうど出てしまったところで、とことんついてないなぁと苦笑してしまう。
郊外の、こんな時間のホーム。
しかも端っこの車両に乗ろうなんて人は私以外にはいなくて、誰もいないホームにぽつりとただ佇む。

『先輩、実は……』
『俺といて無理してない？』
『Aは強いから大丈夫か』

ぐるぐるとまわる今日の言葉たち。
無理して笑った宏光の前での笑顔の私。
一人でいると泣いてしまいそうで、あわてて上を見上げれば真っ黒な空に浮かぶきれいな満月。
あの月は宏光だ。
私はこうやって地上で、手の届かない宏光をただこうやって見上げる。
手を伸ばせば小さなその球体に手が届きそう、でも絶対に届かない。
電車でたった1時間の距離に住んでいるはずなのに、絶対に私たちに未来はない。
遠いのは体の距離じゃなくて、心の距離。
だんだんとにじんでいく視界の中、小さく小さくつぶやく。
「……強くなんて、ない」




「やーっと言ったな」
「っ……やっ…」




ぽつりとつぶやいたその瞬間。
後ろからぎゅっと抱きしめられたその声は、そのあったかさは。
でもそんなことあるはずがないと必死で身をよじるけれど腕の力は一向に弱まってはくれなくて。
「…A、俺だよ？」
「……こんなとこ人に見られたら…」
なんとか絞り出した声はみっともないくらい震えていて、そんな私の様子を前にまわりこんだ宏光がまじまじと覗き込む。
キャップを深くかぶった宏光が、なぜかうれしそうに私を見つめるから思わず視線をそらして。
「……見ないで」
「なんで？こんなにかわいいのに」
Aやっと俺の前でそういうとこ見せてくれたね、と今度は真正面から抱きしめてくれる宏光を押し返す力は私にはなくて。
「…A、あのさ今日泊まってくんない？」
明日車で送るから、というやさしいその声に甘えてしまいそうであわてて首を振るけれど、いやもう決めてるからと手を引かれた。
駅員さんにすみませーん、間違っちゃってと明るく言いながら入場料を生産してもらう宏光をぼんやりと見つめて、手を引かれるままさっきまでいたマンションに戻ってくる。
宏光はそのままエントランスを通ろうとするから、思わず立ち止まれば何？とこちらを見る宏光。
「あの…私裏口から」
「いいんだよ、見られても」
俺は最初からよかったんだけどさ、と笑った宏光はご丁寧に一本一本指までからめてエントランスをくぐった。

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