僕の楽園を探す旅−『近くて遠い、僕ら』番外編−

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付き合い始めて変わったこと。

彼女が俺を太ちゃんと呼ぶようになったこと。
２人で過ごす時間が増えたこと。
一日の終わりに彼女の声がきけるようになったこと。
そして、俺自身がやさしくなったこと。


「藤ヶ谷さん、最近いいことありました？」
人見知りであんまりスタッフさんと打ち解けるほうではないんだけど、俺でも心地よい距離感で接してくれるスタッフさんもいる。
メイクの河嶋さんも数少ない仲のいいスタッフさんの一人で、ほとんど毎日のように顔を合わせているせいか些細な変化まで見破られてしまうようだ。
俺よりいくつか年下だという河嶋さんはこの業界に入ってかなり日が浅いはずなのに技術は大したもので、いろいろと厳しいうちの事務所も河嶋さんの予約が取れればいつでもお願いしていた。
メイクさんだからか肌の調子、クマやくすみなんかから全部見透かされているようだけど、不思議と嫌な感じじゃなくて。
ドラマで忙しいときなんかはメイクしながら苦しくない体制で少し眠らせてくれたりと、かなりお世話になっている。
だから、なんとなく河嶋さんに指摘されることは予想がついたけれど。
付き合いたてでなんだかメンバーにも恥ずかしくて報告していなかった俺は、メンバーがいないかをちらりと確認して、笑みを作った。
「……まぁね」
「やっぱり」
最近顔色もいいしコンディションいいですもんね、という河嶋さんの声を聞きながら、俺ってわかりやすいんですねと笑ってしまった。
ジュニアのころはただ無我夢中で。
無愛想でもいいやって、なりふり構わずただ一生懸命毎日を生きていた。
それはデビューしてからも同じ。
もちろん人前でのアイドルスマイルは忘れないけれど、その反動のようにあまり裏では表情を作っていなかったと思う。
「彼女さんのことですか？思い出し笑い」
「違う違う、っていうか彼女じゃ…」
一応河嶋さんを信用していないわけじゃないけどスキャンダルはやばいからとあわてて訂正したけれど、お見通しですよと笑われて。
「言いませんって」
「いや、でも……」
「…メンバーの方にも言いませんから」
幸せそうで何よりです、という河嶋さんの言葉を否定できずににやけてしまって、結局河嶋さんにめちゃくちゃ笑われた。

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