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その日、たまたま前の仕事が早く終わってラジオスタジオに一番乗りをした俺は机に置かれた雑誌をぱらぱらとめくっていた。
一緒にラジオをするわたも玉も最近では個人仕事が結構忙しくて、全員集まるのはぎりぎりになってしまいそうだった。
ファッション誌を読みながら新しい鞄がほしいなぁ…なんて思っていたとき、控えめなノックの音が楽屋に響いた。
メンバーはノックなんてせずにずかずか入ってくることが多いから珍しいな、なんて思いながらはいはいと適当に声をかける。
「……あの、入ります」
けれど、入ってきたのはなんだか申し訳なさそうな彼女だった。
「…あ」
「……藤ヶ谷、さん」
楽屋に俺しかいないことがわかってあきらかに表情を曇らせた彼女をどうしていいのかわからずに、とりあえず座ったらとソファーをすすめる。
「あの…いえ!これ渉くんに頼まれたやつなので、渡してください!」
私帰りますね、という彼女の腕をとっさに掴んだ。
はっとした顔でこちらを見る彼女の大きな目。
「…いや、たぶんもうちょっとであいつら来るから…待ってたらいいんじゃない」
こんなときにも優しく言葉をかけられない自分に嫌気がさしながらそう言えば、じゃあ…と彼女はソファーの端っこに恐る恐るといった様子で座った。
気の利いた会話の一つでもできればいいのに、うまく話題が出てこない俺は重たい空気から逃げるようにまた雑誌に目を落とす。
「あっ…あの!」
「………ん?」
「あの、こないだ出た新曲、すごく素敵ですよね!」
なんとか場を持たせようとしたのだろう、彼女の言葉に雑誌から顔を上げる。
そこには、きらきらと輝く目。
社交辞令じゃなくて、本心から思ってくれてる目だった。
大きなその目にとらわれたように、じっと見つめる。
「藤ヶ谷さんの『forever』の声が特にすてきでした」
優しくって、切なくって好きです、とつぶやく彼女になんだか気恥ずかしくなる。
「あ!…ご本人の前でこんなの…いやですよね、すみません」
「いや……あんまりそういうの言われることないから、うれしかったよ」
素直にそういって彼女に笑いかけると、驚いたような顔をした彼女が笑顔になって。
「藤ヶ谷さんが私に笑ってくれたのって、初めてですね!」
にっこりと笑う彼女から目が離せなくて、そして。
ああ、俺はこの子がずいぶんと前から気になっていたんだとようやく、自覚した。
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めろんぱん(プロフ) - minaさん» はじめまして(^-^*)コメントありがとうございます!そして曲まで聴いて下さったんですね!このお話を書くのにどうしても使いたかった曲なので、実物を聞いていただけてうれしいです。これからも不定期更新ですが頑張りますのでまたぜひ遊びに来て下さいね! (2015年9月2日 2時) (レス) id: 694980591a (このIDを非表示/違反報告)
mina(プロフ) - 初めまして。この作品の更新を楽しみにしてます!minaです。突然のコメント失礼します(_ _) めろんぱんさんが紹介してた曲、聴きました。すごくいい曲でこの前までの自分の気持ちと同じ歌詞で泣きました。 (2015年9月1日 16時) (レス) id: 8608d5ef27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:めろんぱん | 作成日時:2015年8月6日 2時