Hate You!〈F.Taisuke〉

抱きしめられたら―side you―　１ ページ36

セミが鳴きはじめた7月の始め。
「A、俺補習めちゃめちゃあるんだけど！」
期末テストのあとに転校してきたとはいえ、1学期の成績をつけなければいけないらしく一通りテストを受けたみっくんは赤点だらけのテストを目の前に頭を抱えている。
「あー…こりゃまた…」
その一枚をつまみ上げた宮っちも思わず苦笑してしまう点数に、みっくんは赤くなりながら答案を取り返した。
「アメリカとは進度が違うんだよ！」
「へー…」
「ふーん」
「…みっくん頑張れ」
三人それぞれに生ぬるい視線で見られたみっくんはまた頭を抱えて唸り始めた。









「あれ？一人？」
水曜日。
いつも通り玉ちゃんは保健室に、宮っちは塾に。
みっくんは補習に行ってしまって一人きり。
大抵水曜日になるとやってくる藤ヶ谷君が今日もやってきた。
「いつも一人でしょ」
「北山もいるかと思ってた」
ってか脚立とか危ないよ？と心配そうにこちらを見上げる。
「先生に頼まれたの」
今日もいつも通り一人で本でも読もうかと思っていたら先生から新刊図書の配架を頼まれてしまい、いつもなら宮っちに任せる作業を一人ですることになった。
一番上の列にも届く大きな脚立の上に座って順番に本を配架していく。
「俺がやろうか？」
「いいの、私図書委員だし」
違う、本当はバスケ部の彼が万が一でも脚立から落ちて怪我をしたら大変だから。
「じゃあ脚立抑えてる」
「余計なことしないで向こうで座ってたら？」
違う、本当は2人でいたって本の話以外何を話していいかわからなくてなんだか緊張するから。

元々人付き合いは苦手だけど、それでも宮っちや玉ちゃんだけじゃなくて横尾君やみっくんとも仲良く話している。
…なんでこんなに藤ヶ谷君とはうまく話せないんだろう。

「でもさ、本重いでしょ？」
やっぱり代わるよ、という藤ヶ谷君にいいから、と言いかけた時だった。
ちょうど持っていた本は英語の重たいハードカバーで、手から滑りかけたそれをつかもうと手を伸ばした瞬間に、大きくバランスを崩して。



「っ…危ないっ」



脚立ごと自分が傾いていく景色や藤ヶ谷君の声が遠くに聞こえて。
間違いなく大怪我だ、とぎゅっと目をつぶって衝撃に耐える。
けれど。

「……っ痛ぇ…」
「…っ藤ヶ谷…くん？」

着地したのは意外に柔らかくて暖かい腕の中だった。

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