Hate You!〈F.Taisuke〉

ひとりだけ―side you― ページ23

「じゃ、Aあとよろしくね！」
「俺はあとで迎えに来るから待っててね」
口々にそんなことを言いながら図書室を出ていく玉ちゃんと宮っちを見送る。

毎週水曜日。

宮っちが塾に行かなければいけなくて、しかも玉ちゃんはじゃんけんで負けてしぶしぶ引き受けた保健委員の当番の日で。
週に一日だけ、この部屋は私一人のものになる。
しん、とした広い部屋。
じめじめとした梅雨の空気をまとった部屋の空気は重いし、何よりも仲良しの2人がいないのはさみしい、けれど。
週に一度だけのこの時間は、私の密かな楽しみでもあった。


火を噴くドラゴンを倒しに行く、命がけの旅。
邪悪な魔法使いに立ち向かう少年の勇気。
兎を追いかけて迷い込んだ不思議の国。
時間泥棒。
怪盗と天才的な頭脳を持つ名探偵。


一人の時間だからこそ頭の中に描く空想はよりリアルで面白みを増していく。
週に一度だけ、めったに誰も来ないこの日だけは私も童心にかえってファンタジーを読むことに決めていた。
「えっと…今日はこれにしよう」
4人の兄弟が洋服ダンスから不思議な国に行く物語。
いつも通りカウンターに座ってページをめくるたび、どんどんさまざまな生き物の住むその世界へと入り込んでいった。









「あの、すみません」









ふと聞こえたその声に、びくりと肩が震える。
いつの間に、誰かが来ていたんだろう。
久々に物語を読みふけってしまっていて人の気配なんて何も気がつかなかった。

「すみません！なんで……しょ…う…」

慌てて頭をあげれば。
そこには会いたくない人物No.1の藤ヶ谷太輔が少しだけ困ったように、そして居心地が悪そうに立っていた。

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