Hate You!〈F.Taisuke〉

知らない世界への一歩 ページ22

「太輔！パスっ」
放課後の体育館に響くドリブルの音。
小さいころから、なんだかバスケが好きだった。
一心不乱にボールを追いかけて、相手をかわしてドリブルからシュートを決める。
鮮やかな上級生やテレビの向こうのスターに少しでも近づきたいと不真面目な俺にしては珍しく小学校のクラブからこれまでずっと続けてきたものだ。
もう少しすればテスト週間。
そうなってしまえば部活は停止だからといつも以上に動き回って汗をかく。







「おい、藤ヶ谷」
練習後監督に呼ばれて一人部室に入る。
「はい…？」
「お前最近スリーポイントあんまりうまく入ってないな？」
こちらを見る監督の目は厳しいようだけれど、毎日俺のことをしっかりと見てくれている瞳で。
「……実は、こないだからなんかうまくいってなくて…」
バランスでもくるってるかな、とつぶやけば監督は俺の肩をぽん、と叩いて。

「悩んだときは一回基本に返れ」

図書室に結構バスケの本がそろってたから、読んどけよと言って監督は出て行ってしまった。
「まじかよー……」
部室のベンチで頭をガシガシとタオルでふくながら愚痴っぽくなってしまうのはしょうがないだろう。
なにせ勉強嫌い、中でも国語やら英語やら本を読んだり文章を読んだりすることが大嫌いな俺だ。
この高校に入って、どころか小学校からろくに図書室なんて行ったこともなかった。
「……でも、レギュラー落ちたくねぇしな」
せっかくがんばっているのにスリーポイントが原因で試合に出られないのもなんだか嫌で、小さなため息をついた俺はジャージのまま首にタオルをかけて西日に向かって歩き出した。



からから、と小さな音を立ててドアを引けば案の定、というかなんというか。
図書室には誰もいなくてやっぱりな、なんて思う。
早く本を借りて俺も帰ろう、と書架に向かって歩き出す、と…。


横目に映ったカウンターでうつむく少女。
きらりと夕日に反射する眼鏡。


「…Aちゃん…」


うつむいた彼女はどうやら夢中で何かを読んでいるらしく、俺の事なんて全然気づいていない。
それをいいことに普段は見られないAちゃんを自慢じゃないけれど視力は良いから遠くからそっと眺める。
楽しそうに夢中になって文字を追うその瞳は生き生きとしていて、気がつけばもう15分も時間がたってしまっていた。


「…俺、変態みたいじゃん」


あわてて棚から『バスケ入門』なんていかにもな本を取り出して足早にカウンターに向かった。

ひとりだけ―side you―→←起こさないで―side Ｔ―

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