先生、あのね？

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「Aっ待って」


廊下を走る河嶋さんの腕を夢中でつかんで足を止めさせる。
「…戻ってください」
彼女、待たせちゃかわいそうですよと言うその声に首を振ってぎゅうっと強く抱きしめればこわばる身体。
「…藤ヶ谷先生、早く」
「あれは誤解だから！その…好きって言われただけで…ゲームみたいなもんだから」
「……ゲーム、ですか」
ゲーム、と言った途端にぴくりと動いた肩。
「そう、ゲームだから」
好きだと気がついてしまったからにはどうしても彼女の誤解をときたくて、必死になって言い訳じみたことを繰り返す。

だから。
彼女が腕の中でどんな顔をしていたかなんて、知りもしなかった。

「…も、いいです」
私に言い訳しなくたっていいですよ、先生という声が少しだけ震えていることに気がついて腕の力を緩めて顔を覗き込もうとすると、ふいっとそらされた顔。
でも、たしかに電気の光に反射してきらきら光るものがあって…。
「……泣いてる？」
「泣いてませんっ」
「だって今…」
必死に顔を隠そうとする彼女を半ば無理やりこちらに向かせると、やはり頬に涙のあとがあった。
「なんで…？」
「…先生には関係ありませんから」
「関係ないわけないだろ？」


「どうしろっていうんですかっ…恋愛はゲームだって、全部ゲームだって言われたら…！」
「だからそれはさっきの子とは何もないって意味の…「私の…！」」
声を荒げた彼女を落ち着かせようとすると、それを遮って河嶋さんが続ける。
「私の気持ちなんて、知らないくせに」
「…え…？」

「先生にかわいく話しかける女の子を見て私がどんなに悲しかったか、知ってますか」
「A…ちゃん」
「いまさらこの委員長タイプの性格を直すこともできないし」
「ちょっと…それ」
「先生は面白がってるだけなんでしょうけど、…私が本気になったって迷惑なだけなんでしょうけど…っ」
言いながらまたぽろぽろと涙をこぼす彼女をもう一度ぎゅっと抱きしめる。


「俺の話、聞いてくれる…？」

恐る恐るそう言うと、涙目の彼女はこくりと頷いた。


「…俺、ホント最低でさ」
本気の恋愛なんてばかばかしいと思ってたし、この顔のせいで女には困らないから誰にも縛られずに楽しく遊んでいられればそれでいいやって思ってた、と白状する。
「だからさ、正直最初近づいたのは真面目ちゃんを本気にさせたら面白そうだな、くらいの気持ちだった」
「…やっぱり…」
「でも」
でも、という言葉に驚いた彼女が俺に視線を合わせた。

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