先生、あのね？

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それから、俺は秘かに河嶋さんを観察し続けた。
「じゃあこの問題、河嶋さん」
「はい、わかりました」
授業中いつあてても完璧な回答を返してくること。
黒板に書かれた字がとてもきれいで、文字を書く姿勢すらすごく綺麗なこと。
「河嶋さん、あれ教えて？」
「いいよー」
休み時間にわかりやすくクラスメイトに勉強を教えていること。
「じゃあ河嶋さん、ノート集めてきてくれる？」
「はい、わかりました」
明らかに大嫌いな俺の言葉だって、人前では笑顔で引き受けてしまうこと。
「…これ、置いときます」
「あ、ありがとうAちゃん」
「…っ河嶋です」
俺と2人きりの時にはにこりともしないでできるだけ早く部屋から出て行ってしまうこと。

見れば見るほど真面目な委員長で。
見れば見るほど俺の好みでもタイプでもない。

それなのに、妙に彼女ばかりを目で追っていた。









「何、また一人で掃除引き受けちゃったの」
放課後クラスに行ってみれば、せっせと掃除をしているのは河嶋さん一人きりで。
「……別に」
皆部活の大会が近いっていうから…と言ってふたたび床を見る彼女。
やれやれと俺も掃除用具入れから伯ほうきを取り出せば、俺の方を見て彼女は目を見開いた。
「あ、怒った顔と笑顔以外の顔初めて見た」
「…っ先生はやらなくて大丈夫なので」
申し訳ないですから、と俺のほうに歩いてきて俺の持つ箒を取り上げようとする河嶋さんの腕を逆につかむ。
「……ねぇ、つかれない？」
「…っ離してください」
「完璧な委員長、疲れない？」
必死に腕を振り払おうとする彼女にそう問いかけるとぴくり、と肩が動いて。

「…別に、誰かのために完璧でいようと思ってやってるわけじゃありませんから」
私がその方が楽だからやってるだけですからほっといてください、と向こうを向いたまま言う彼女。
「それで楽しい？」
「…楽しいですよ？」
その答えは明らかに楽しくなさそうでそんな彼女になんて返せばいいのかわからなかったけれど。

「離してくださいっ」
「っいってぇ」
思い切り箒の柄でみぞおちのあたりを突かれて思わずよろめく。
その隙に俺の手から箒を取った彼女は手早く用具入れに2本とも箒をしまってしまって。


「物珍しいからってかまわなくていいですから、ね？」
先生？と委員長の笑顔でそう言い切って教室を出て行ってしまった。

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