先生、あのね？

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「あ、Aちゃん」


無事この高校に赴任して早2週間。
俺自身は結構な人見知りだけれど生徒の方からかなり気さくに話しかけてくれるし、顔のおかげもあってなんとか北山先生の後を引き継げている。
早くも女子たちの間ではかなり人気のようで休み時間や放課後に質問と称して数学科準備室にやってくる女の子が何人もいる。
結局場所が変わっても俺の遊び癖はやめられそうもないし、女の子たちも俺との恋愛ごっこを楽しんでいるんだからお互いにそれでいいのだ。

そう、彼女以外は。


「……なんですか」
廊下で出会った彼女を呼び止めると露骨に嫌そうな顔で後ずさる。
「次の授業で配るプリント、準備室から持ってきてくんない？」
「嫌です」
即答で嫌だと答えた河嶋さんは続けて名前で呼ばないでください、と言い放つ。
「そんなこと言わないで仲良くしようって」
「仲よくする理由がありませんから」
「えー、だってかわいいじゃん？Aちゃん」
「だからっ…」

「あれー？藤ヶ谷先生と河嶋さん、どうしたの？」
「先生次うちらのクラスの授業じゃない？」

河嶋さんが何かを言いかけたところで運悪く同じクラスの女の子たちが通りかかる。
「…藤ヶ谷先生が、授業で配るプリントを取ってきてほしいって」
今お願いされたところなの、と俺に対する態度とは真逆のにっこり笑顔で答える河嶋さん。
「そっかー…クラス委員って大変だね」
「先生のお手伝いまでしなきゃいけないんだね」
「大丈夫だよ？あ…先生私取ってきますね」
「あ……ああ…」
友達の前だからか俺にまで笑顔でそう言うと、河嶋さんは準備室の方へと歩いて行ってしまった。
「河嶋さん、大変だよね」
「えらいよねー…クラス委員で忙しいのに成績もめちゃくちゃいいしさ」
「いつも宿題とかわかんなかったら教えてくれるし優しいよね？」
俺のわきでそんなことを話している女の子たちの会話をぼんやりと聞きながら、なぜだか彼女をじっと見つめてしまう。

まっすぐに伸びた背。
校則通りのスカート丈。
すらりと伸びた足に紺のハイソックス。
やっぱり俺の好みじゃない。
もっと軽くてふわふわしていて。

簡単に俺のことを好きになってしまうような、そんな女の子と遊ぶのが楽しいのだ。


それでも。
一分の隙もない河嶋さんに俺のこと『好き』って言わせてみたいなんて、なぜだかそんなことを考えながらその後ろ姿を見つめていた。



　

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