先生、あのね？

５ ページ5

「A遅い！」
「ごめんね、マイコ」
手を合わせて謝る河嶋にみんなが温かく笑って。
「河嶋こっち座れよ」
「ダメ！Aは私の隣なの」
佐藤が河嶋の手を引いて隣に座らせる。
そういやこいつら高校時代から仲良かったなぁ…なんてぼんやりその光景を見ていた。
「河嶋何飲む？」
「何でもいいよ、皆が飲んでるので」
そんなやり取りをした河嶋はふとこちらを向いて。
「お久しぶりです、先生」
俺の斜め向かいでにっこりとほほ笑む河嶋にあのころのことを嫌でも思い出す。

変わらない笑顔。
少し高めの甘い声。
肩で切られていた髪は少しだけ伸びていて。

それでも、河嶋がそこにいた。
「…ああ、久しぶり」
その声はみっともなく震えそうになって、慌ててビールを流し込んでごまかした。


「じゃ、全員揃ったところでかんぱーい！」


ムードメーカーの二階堂が勢い良くグラスを空中につきだして、大きな声を出せばあちらこちらでいえーい！と声が上がる。
「ところでみんな大学４年じゃん？どこ就職するの？」
どこかでそんな話が始まり、集まった奴らのこれからの話になった。
「私は地元に戻ってくるよ、市役所で採用が決まったから」
「おー！佐藤さすが！」
「公務員とか、佐藤らしすぎ」
委員長の佐藤はしっかり市役所勤務が決まっていて、相変わらずしっかりしてるなぁと感心させられる。
「私は東京でOLやります」
「俺も!恵比寿の会社でプログラマー」
「じゃあ向こうでまた会えるね」
都会で働く奴らもそれぞれに明るい未来を描いていて、なんだか楽しそうだ。
「それにしても就活きつかったよね…」
「『お祈りメール』に心折れたよね！」
「そうそう！内定もらったとき思わず涙でたもん」
そんな話ももう笑えるけどね！と明るく笑いとばす彼らの若さが輝いて見えた。
「俺は高卒でダンスの講師始めたから…最近はショーにも出てるんだ」
「千賀昔からダンス好きだったもんなぁ」
アーティストのバックダンサーをつとめることもあるという千賀は昔ダンスコンクールで賞をとったこともある実力派で、少しずつだけれど露出が増えてきたそうだ。
「みんなすっげぇなぁ」
感心して素直にそう言えば、少しだけ照れたような…でも誇らしげな笑顔でみんながこちらを見る。
「高校時代を知ってるからか、みんな大人になったなぁ…って感じ」
「うわ、みっくんおじさんくさい発言！」
「うっせ！」
そんな４年前と変わらないやり取りをもなんだか懐かしくてうれしかった。

６→←４

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す