先生、あのね？

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「じゃあ、一通り案内しますね」
職員室を出た彼女は俺の方も見ずにそう言ってすたすたと歩き出す。
正直真面目なタイプの子は苦手で、北山先生のせっかくの申し出だけれど一人で見て回ろうかと思っていたところだったから、突然歩き出してしまった彼女に出ばなをくじかれてしまった。
あわてて河嶋さんを追いかけて横に並んでもこちらも見ずにただ前を向いて彼女は歩いていく。
「ねぇねぇ、クラス委員て大変じゃない？」
「いえ…」
頼まれると断れない性格で…なんていいながらやっぱり彼女はこちらを見ない。

「ねぇねぇ、Aちゃんって呼んでいい？」

せっかくだし仲良くしようよ、と肩に手を置けばその手をすっと払われた。


自分の顔がそこそこいいってことは自覚している。
そのおかげでこれまで遊ぶのに困ったことはなかった。
それなのに。

手を振り払った彼女をまじまじと見るけれど、やっぱりこちらを見ようとはしなくて。
化粧気のない横顔。
それでも人工的なつけまつげじゃない真っ黒で綺麗なまつ毛に縁どられた瞳はとてもきれいで。
グロスもつけていないだろう唇だってすごくやわらかそうだし。
案外美人じゃん？なんて失礼なことを思いながら彼女のことを見ていると、ふっとその顔をがこちらを向く。

「先生、ここが私たちの教室です」

入られますか？という言葉に頷けば、扉を開けた彼女が俺を促す。
河嶋さんが開けてくれた扉から教室に入る。
…と同時にドアにかけていた彼女の手をぐいっと引いて教室のドアに押し付ければ、さすがに驚いたようにこちらを向く顔。
「せんせ…？」
「ねぇ、俺と遊ばない？Aちゃん」
せっかくだから期間限定で恋愛ごっこでもしようよ、と言ってそのまま顔を近づける。
近づいてみれば確かに今までの遊び相手とは感じが違うけれどやっぱり美人でいい感じじゃん？とそのままキスをしようとすると…。


「……遊び相手なら他で探してください」


そもそも今日の案内だって頼まれてしてただけで、私先生に興味なんて一切ないので、とその表情を一切変えることなく言い切った彼女はおもむろに。


「っ…いってぇっ!!!」
「委員長舐めんな、ってことですね」

俺の脛をけりつけて今日一番の笑顔で教室を出て行った。



…面白れぇじゃん？裏表のある委員長、なんて。
ぜってー…好きって言わせてやる、と新しいおもちゃを見つけた気持ちになって思わず笑みがこぼれた。

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