先生、あのね？

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ほんの3日前にかかってきた突然の電話は、待遇としてもかなりいいもので二つ返事で俺はその仕事を引き受けた。

そして。

「すみません、忙しいのに来てもらって」
正式に着任するのは来週の頭からなのだが。育休をとる先生が引き継ぎをしたいと連絡をくれてこれから赴任する高校へとやってきた。
「こんにちは、北山です」
てっきり育休だというから若い女性に出迎えられると思ったら出迎えてくれたのは俺といくらも年の違わない男性で驚いた。
「驚いたでしょ？」
男の俺が育休なんて、と笑った北山先生にあわてていえいえ！と言えば、いや驚いてもらって全然大丈夫ですからと明るく返される。
「いやぁ…年の離れたうちの奥さんが双子を生んだばっかで…」
この週末に家に帰ってくるんですよ、とうれしそうに話す北山先生はちょっと小柄だけど童顔で人懐っこくて、なんだか生徒に人気のありそうな先生だ。
「今担当している2年生は結構素直な子が多いんでやりやすいと思いますよ」
今やっている単元だとか、この高校の進度なんかを丁寧に教えてもらいながら職員室で話をしていると…。


「北山先生」


小さくて細い、綺麗な声に振り向くとそこには一人の少女が立っていた。
「お、河嶋」
北山先生が手招きすると、その少女は俺の前へとやってきた。
「俺これから会議が入っちゃって…学校の案内はクラス委員のこいつに頼みましたから」
「え、そんな…」
申し訳ないです、と言おうとしたのは本当に申し訳なかったからという気持ちよりも誰かと一緒にずっと行動することの煩わしさが大きかったのだけれど…。
北山先生は、まぁ河嶋はクラス委員なんで今後もいろいろとかかわるでしょうし…と言われて納得する。
「俺からの話は大体終わったんで、じゃああとは河嶋お願いできる？」
「はい、わかりました」
「忙しいのにごめんな？」
「いえ、全然！」
北山先生の方を向いて何でも言ってくださいねと返事をした彼女はにっこりを笑って俺の方を向いて。

「河嶋Aです」

宜しくお願いします、と頭を下げたときにさらさらと髪が肩を滑った。
肩より少し伸びた髪。
化粧気のない顔。
校則通りの制服。

……俺が絶対に遊び相手に選ばない、めんどくさそうなタイプだな。

「藤ヶ谷太輔です、よろしく」

いかにもまじめで先生に頼られそうな生徒像そのままの彼女に俺も笑顔で答えながら、頭の片隅でそんなことを思っていた。

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