先生、あのね？

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その声にはっとして手を止める。

中にいるのは…横尾先生だ。
「まぁ、おちつけよ渉」
「おちつけないって…！たいしゅけ！」
「ははは、俺の名前まで噛んでる」
深刻そうな横尾先生の声とは対照的に明るい笑い声をあげているのはこの学校の保健室の先生の藤ヶ谷太輔先生。
保健室の先生で男性は珍しいと思うけれど、藤ヶ谷先生はもともとかっこいい顔立ちと優しくて話しやすい雰囲気で主に女子から大人気。
そんな藤ヶ谷先生と横尾先生が仲が良かったなんて知らなかったけれど、下の名前で呼び合うなんて本当に仲がよさそうだ。
ずいぶんと親しげに話す2人の会話を盗み聞きなんて趣味がが悪いと思いながらも…そっとドアに耳を押し当てた。


「……だって！泣かせちゃったし…俺たぶんひどいこと言った」
「何？」
「『俺のこと好きなんてありえない』って…『罰ゲームかなんかだろう』って」
「そりゃ泣かれるって」
藤ヶ谷先生の声が少しだけ厳しいものになる。
「だって渉、もし渉が好きな人に告白してさ、『どうせ罰ゲームでしょ』とか言われたら嫌じゃねぇ？」
「でも…生徒だよ」
「いや、そこは今は問題じゃないでしょ」
「だって…」
「生徒だから本気じゃないって決めつけるのは、そのノート書いた子に失礼だと思うけど」
「…だって、俺嫌われるようなことばっかりしてるし」
「うん」
「授業だってうまくないし…その、太輔みたいにかっこよくないし…」
「渉もさ、どうせ俺なんか好かれるはずないって思いは一回置いといて、まっすぐ見てみろよ。その子に限らず生徒にどう思われてるのか勝手に決めるのは自分勝手すぎると思うよ、俺は」
渉の自己評価が低いのは昔からだけどさ、とドアの向こうで藤ヶ谷先生が横尾先生の…たぶん肩を叩いた音が聞こえて。
「付き合えとか言わないから、逃げんなよ」
横尾先生に向けたその声は、とても優しくて。



そっか。
先生が私の気持ちをありえないなんて否定したのは、単に先生自身に自信がないからで…。
先生は信じられないだけ。
この気持ちを否定された真意がわかって少しだけ気持ちが楽になる。
きっと罰ゲームとかいじめとか…それ以外に先生は自分に好意を向けられる理由がわからなかったんだ。
それなら……もう先生に知られてしまった恋心なんだから怖いものはない。


「…恋する乙女は案外強いんですよ、先生」


保健室に逃げてる場合じゃないとその扉に背を向けると、横尾先生の授業に遅れないように小走りで廊下を戻った。

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