先生、あのね？

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「あ…ノート…」
社会科準備室からとりあえずいちばん近いトイレまで走って思い切り泣いた。


伝える予定もなかった恋心。
それでも私にとっては大切な想いだった。
勇気もなくてただ見つめるだけの恋だったけれど、それでも先生の顔を見られるだけで、その声を聞いているだけで幸せだった。
いつか大人になって高校時代を振り返った時に、あんなことあったなぁ…ってしみじみ思い出して少し恥ずかしくてそれでも暖かい思い出になるはずだったこの気持ち。
それをこんな形で知られてしまうなんて。
…そして、あんなに優しい笑顔でそれを否定されるなんて。


「……もう、いっか」
どうせ伝えるつもりもなかったかなうはずのない想いだったんだ。
ノートは新しく作ればいい。
真っ白なノートを使っていくうちに…きっと先生への気持ちもなくなっていくよね？


そう自分を元気づけようとしても、トイレの鏡の中で真っ赤な目をしている私はまだまだ立ち直れそうもなかった。









次の日。
5限目が横尾先生の授業だと思うと朝から憂鬱。
隣の子に顔色悪くない？なんて心配されるくらいに顔に出てしまっているみたい。
緊張しすぎなのか気分が悪くなってしまって、せっかくお母さんが作ってくれたお弁当も全然食べられない。

……昨日の今日だもん、無理で当たり前だよね


ずるいとわかっていても横尾先生を直視することなんてできそうもない。
「ごめん、ちょっと風邪気味みたいだから保健室行ってくるね」
そう告げて、重たい足取りで教室を後にした。
だらだらと保健室に向かって歩きながら考えるのはやっぱり横尾先生のこと。
昨日あんなに泣いたのに…やっぱり一日で切り替えができるほど大人にはなれなくて。

「……それくらい、好きなんです」

もう伝わることのない想いだとわかっていても思わずつぶやいた小さな一言。
先生のことを考えているだけでまた涙で視界がにじみそうで慌てて上を向く。


こんなに胸が苦しくって切なくって。
その人のことを考えただけで涙がこぼれるような。

そんな恋があったなんて知らなかった。



「…保健室のベッドで泣かせてもらおう…」

誰かに見られる前にとうつむいて一階の廊下の奥の保健室を目指す。

そして、保健室の引き戸を開けようと手をかけたとき。




「……どうしたらいいと思う？太輔」

それは、私がいつも会いたくて、そして今一番会いたくない人の声だった。

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