先生、あのね？

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「うー……」
「なんだよー」
俺明日の単語テスト作らなきゃいけないんだけど？と言いながらも私の前に湯気の立つマグカップを置いてくれる裕太くん。
「うー…」
マグカップを両手で持ちながら、猫舌で飲めなくて唸るだけの私をちらりと見てしょうがないなぁというように裕太くんは笑った。
「ほらほら、裕太さまに何でも話しちゃいなさい？」
パソコンに向かっていた手を止めてわざわざ私の隣に座って頭を撫でてくれるけれど、私の表情はなかなか晴れない。
「うー」
「どーせ宮田の事だろ？」
「っ…なんで」
「そりゃ、ずっと見てるからわかるよ」
かれこれもう2か月、ため息ばっかついちゃってさ、という裕太くん。

「だって…宮田が悪いんだもん」
「んー？そうなの？」
「なんか、日常がなくなって落ち着かないだけ」
「ホントに？」
そう言われて言葉に詰まる。


そう、あれからもう2か月。
もう少しで2年生も終わってしまうのに、宮田はやっぱり私に絡まないままだ。
私を追いかけなくなった宮田はどんどんいろんな女の子にくっつかれるようになっていって、いっつも女の子に囲まれている。
そんな宮田にうまく言えないもやもや感を抱えて裕太くんのところに来たわけだけど…。


「…宮田は、なんで私のことを追っかけてたのかな」
「それはAちゃんが好きだったから、でしょ」
「……そんなの本気かわかんないもん」
「Aちゃん、そうやって逃げちゃダメ」
め！だよ、とおでこを軽くデコピンした裕太くんは、それでも優しい目で私を見た。
「宮田の本気、Aちゃんに伝わってたでしょ？」
「……でも……」
「でも？」
「ちょっとウザいって言っただけであきらめるなんてやっぱり…」
「それはさ…」
ふぅ、とため息をついた裕太くんは私の方に体ごと向き直った。

「ただでさえ俺らは教師で…リスクが大きすぎるんだよ」
「じゃあやっぱり…」
「でも」


「教師とか生徒とかの前に、男だし女だよ？」

恋した相手がたまたま生徒だっただけなのに、それは責められなきゃいけないこと？という裕太くんの目は真剣だ。


「……わかんない」
「お子ちゃま」
「だけど、イライラする」
「ははは、イライラかぁ…」
前途多難だな、という裕太くんのつぶやきに首をひねれば、わからなくていいよと頭を撫でられて。

「Aちゃんはゆっくり大人になればいいよ」

そろそろ飲みごろじゃない？と言われてマグカップの中身を一口飲めば、私の好きな甘いココアだった。

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