先生、あのね？

４ ページ13

「えーじゃあ先生この高校出身なんだ」

昼休み。
午前中は櫻井先生についていろんなクラスの授業を見学させてもらって、授業進度とかクラスの雰囲気なんかを観察する。
やっぱり教壇に立っている先生って特別で、ちゃんとポイントを押さえて話している上にクラスの様子にも目を配っていて。
まだ駆け出し…ともいえないような俺からしたら学びたいことも盗みたい技術もいっぱいで生徒以上に目を輝かせながら聞いてしまった。
「…千賀さ、見すぎ」
「あっすみませんっ」
「いやいや、やる気あってすげぇいいよ」
休み時間に櫻井先生とそんな話をしながら実習生控室に戻る。
「あ、千賀飯食おうぜ」
「あー…実はさ」
二階堂にお弁当を…と言おうとしたらちょうど彼女たちが「千賀先生！」と呼びに来て。
「ふーん、モテモテじゃん」
ずりー！なんていう二階堂を残して、手を引かれるままに担当クラスまで連れてこられた。





席についた途端お弁当なんて食べる間もないくらいの勢いでいろんなことを聞かれる。
兄妹はいるの？とか、どの辺に住んでるの？とか。
さすがに住所とか電話番号なんかは教えられないけれど彼女たちの質問攻めに付き合う。
「じゃあ、高校の先輩なんだ！」
「うん、そうだよ」
部活はダンス部だったと言えば、お弁当を食べていたうちの2人くらいが私も！と反応してくる。
「じゃあ先生遊びに来てよ」
「えっずるいー」
「だって部活の先輩だもーん」
ね、先生？と腕を絡めて上目遣い。
うーん…仲よくしてもらえるのは嬉しいけどこういうのはちょっとなぁ…とやんわりその腕を外して、忙しいから部活は無理かなぁと答える。
「えー…残念」
「じゃあ暇があったら来てね！」
その言葉には素直に頷いて、ようやくお弁当に手を付ける。
「先生、あだ名とかないの？」
「あだな？」
「そう！あだ名つけちゃおうよ」
「いや、一応…」
先生だから…という言葉を言う前に彼女たちはきゃあきゃあと話し始めてしまって。

「健ちゃんは？」

健永だから健ちゃんでよくない？という言葉に思い出したのは昔から変わらないAの笑顔。
『健ちゃん、けーんちゃん！』
ねぇねぇ、と腕を引くその慣れきった感触。
さっきの女の子と変わらないくっつき方なのに。
今の彼女たちと変わらない呼び方なのに。

なんだかA以外の誰からも「健ちゃん」と呼ばれることに違和感があって。



「一応先生だからね？」

彼女たちを諌めて結局がっちゃんとあだ名をつけてもらった。

５→←３

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す