先生、あのね？

終わったはずの恋心〈K.Hiromitsu〉　１ ページ1

２月の始め。

「さっみぃなぁ…」

白い息を吐きながら、着任したときから変わらず自転車で通勤する俺。
いつかお金がたまったらと思いながら、学生時代から結局かわらない自転車通勤を貫いている。
きこきこと少し錆びた自転車を走らせるのも少し楽しかったりする。
「おはっよー、みっくん」
「みっくーん、今日のテスト簡単なのにして！」
「課題まだできてないけど大目に見てくれる？」
「お前ら学校では先生って呼べよな」
通勤路は通学路なわけで、今日も俺の担任の生徒たちにしっかり捕まってしまった。
『みっくん』と呼ばれることに一応反応はしているけれど、正直堅苦しいのは嫌いだからこれくらい気楽にみんなと付き合えるほうがいい。
それでももうアラサー、来年には大台に乗ってしまう俺としては少しくらい威厳というものがほしかったりもするんだけど…。
「えーみっくん小さいから先生っぽくないし」
「童顔だしね」
「うっせ！俺はホントはなぁ…」
「はいはい、１８０センチあるんでしょー」
今日もめりこんでて大変ですねーなんて笑う彼らとの毎日はすごく楽しくて、教師と言う職をえらんでよかったな、としみじみ思う。
「お前ら、今日の小テストは難しくするからなー」
覚悟しろよ、と笑えばみっくんの鬼！と口々に言う彼女たちに笑いかけて。
「早く学校行って勉強しろよー」
彼女たちを追い越してぐんぐんと自転車の速度をあげる。




『みっくん、おはよう』




ふと、風に乗って彼女の声が聞こえたような気がして、ぴくりと肩がふるえる。
もう思い出すこともないと思っていたあのころのことを思い出してしまうのは、昨日懐かしい電話がかかってきたからだろうか。

『大学卒業前にクラス会をすることになって…みっくん来てくれる？』

電話の相手は当時のクラス委員の佐藤マイコ。
４年前に担任を持った３−６組は俺が初めて持った受験生で緊張の連続だったけれど、本当に仲のいいクラスでいまでも特別な思い出だ。
そんな奴らからの誘いとあらば…と２つ返事で了解すれば、今週末に駅前の居酒屋でと告げて電話は切れた。


彼女は…来るのだろうか。


４年前にもうやめようと振り切ったはずの恋心を思い出して胸の奥がぎゅっと苦しくなった。

２→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す