【文スト】優しい殺人鬼/Sequel 【森鴎外】

回想譚　弐 ページ8

同時に、それが“好ましくない”ことであることだと察しはついていた。それは何故か？

……あまりに彼が優しい目で見てきたからだよ。
まるで、主(かみさま)に祈りを捧げる時のようにね。

そして、彼はこう云った。
『優しい友よ、私を殺して欲しい』と。

――私は優しくなんかない。
――私をそんな目で見ないでくれ。

何度も彼の言葉とお願いを否定したが、ついに私の方が折れた。私は医者だという話は覚えているね？

……つまり、私は彼が限界だと悟ったのだよ。

満身創痍で虫の息。
今、彼は“死ぬより辛い状況で生きている”とね。

――……だから、殺した。

まず預かった君を後ろにいた構成員に渡す。
そして彼と向かい合い、別れの言葉を述べ、メスを喉元に押し当て“ずっ”と引いた。その瞬間、彼が嬉しそうに笑い、私の今後を祈ったことは今でも忘れたことがないねえ。

閑話休題。
兎に角、そうやってAの父親は死んだ、
母親は……うん、高瀬会の本拠地で殉職したよ。敵の弾が当たるその時まで、マフィアの奥様として立派だったと聞いている。

問題は、その後だ。
二人の後を追って殉死する構成員も少なくなかったらしいが……どこからか“私が喜助を殺した”という部分だけが漏洩し、私に恨みをぶつける輩もでてきた。

それが、“ザントウ”の正体。

勿論、彼らは君が生き延びたことは知らない。
知れば、もっと拗れるだろうからねえ。

……そういえば、“君の記憶を消し続けた”理由を話していなかったね。

これは今話したことと深い関係があってねえ。
彼を殺した後、君をどうするか考えたせいか、ふと振り返ってみたんだ。

すると、Aと目が合った。
寝ていたはずのAが、見ていたんだ。


嗚呼、今の私の右手には返り血で濡れたメスが――


……その瞬間、“こんなの幸せじゃない”と思った。
君は託された子なのだから、どうにかしてその責務を全うしなければならないと思った。

だから、研究段階であり尚且つ違法だった記憶操作機械を米国から輸入し、満足がいくまで個人的に研究を重ね、完成させた後に記憶を消した。

そうして、他の構成員たちの助力と“Aの幸せのために”という一心を基にして、今に至るというわけだよ。


　


(Even if it is wrong.)

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