【文スト】続・優しい殺人鬼 【森鴎外】

　１０時 ページ9

「そうであろう？」
「あっ、はい！」


この際、ばれなければ何でもいいと便乗する。


「口紅を贈る意味は“貴方に接吻(キス)がしたい、されたい”…………だが私(わっち)はそのような意味で贈らぬ」


そっと、紅葉さんがベッドの上に腰掛ける。


「実は、意味はもう一つあるのじゃ……まぁ、結局は同一視されるがのう」


そう漏らすと、彼女の手が私の顎を掴んだ。瞬間的な悲鳴を上げることも、目を逸らすことも叶わない。

――何秒見つめ合っただろうか。思い出したかのように目の前の蛇が焦らすように口を開いた。


「“美しくあれ、A。失われたモノを取り戻せ”」


するりと手が離れるが、私は睨まれた蛙のまま。
……どういう、ことなの。


「どうした、A」


ひらひらと手を振られ、正常な意識が浮上する。


「……急なことだったので、つい、反応が……」
「ほほぉー、そうかそうか」


何故か嬉しそうにする紅葉さん。確信犯か。


「……えっと、それで、何でしたっけ。“失われモノを”……ですか？」
「そうじゃ」


疑問を、紅葉さんが力強く肯定する。


――失われたモノ。

きっと、多すぎる。
多すぎて分からない。

私は今、何を探している……？



(夢の中へ)

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