【文スト】首領、１３歳になります。【森鴎外】

第四十四話　白のカーネーション ページ46

「……………………ぇ？」


突然のことに、言葉が上手く出ない。

よしよし、と子供をあやすように頭を撫でられる。
よくできました、と言わんばかりに。

髪に、手が。
手の、温もりが。

――もしかして、“愛されて


「……ゃ、やっ！」


ドン、と首領を押し飛ばす。


「あっ……」


目を丸くした首領を見て、
今自分がしたことへの後悔の念が湧いてくる。


「し、失礼します……っ」


だがどうしていいのか分からず、逃げるように自室へ向かう。


――分からなくなっているんだろう？


砂色のコートを纏う人の声が脳内に響く。
そうだ、そうだったのだ。


――好きな人に愛されたいのは当然のことだ。
――何も問題は無い。


全ては、“ここ”から、間違っていたのだ。

愛されるなんて、我儘だったのだ。

それを、理解してしまったからこそ、私は無意識に首領を避けた。


――これで……いい。


焦る気持ちとは裏腹に、思考は酷く冷静だった。

これから、この恋心は首領に隠し通す。
そして、立派な臣下として尽くすのだ。

元よりそのつもりだったはずだ。


――これはきっと……報い。


今まで我儘だった、
愛されることと労いの区別を“つけなかった”私への、報い。

だからこそ、私は首領の気持ちを裏切らないためにも線引きをする。
首領の“愛”を自分のための“愛”に利用したことへの、償いとしても。

間違えないためにも。


一つ、臣下は恋心を抱かないこと。
一つ、臣下は王の御心のままに尽くすこと。
一つ、労いは愛と受け取らず愛情と受け取ること。
一つ、勘違いをしないこと。

私を、私だけを、特別に愛すことは絶対に無い。
己の価値を傲り高ぶるな、馬鹿め。


　


(臣下の四戒)

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