＊距離感 ページ4
yb side.
「薮をメインで歌わせたいんだけど。」
ある日、光が真っ直ぐな目で俺を見て言った。
「どうかな…？薮がメインボーカルで…バンドっぽくするのもいいかなって思うんだけど…」
それからもう一人、同じユニットになった大ちゃんに伺いを立てるように視線を送る光。
ユニット曲をどうするかという話し合いの場で、光がいつになく真剣な顔で提案をしてきた。
大ちゃんは少し驚いた後に、なにやら光の言いたい事を悟ったかのようにニッと笑って「いいね！薮ちゃんの歌声を聴かせるかんじの曲ね！！」と快く賛同した。
「いやでも、…それぞれに見せ場があるかんじの方がいいんじゃない？」
俺からの意見を聞いて大ちゃんが光に視線を向ける。
「…今回は薮を歌わせたい。大ちゃんが賛成してくれるならだけど。
こないだ薮の舞台を見た時に思ったんだ、おれ。もっと、…もっといろんな人に薮の声を聴いて欲しいって。最近また上手くなった…ってか、深みが増した？っていうのかな、うまくいえないけど…」
「ヒカが言いたい事なんとなく分かるよ。…薮ちゃんにがっつりサビ歌ってもらうとかね！」
「や、それは…」
「こないだの舞台見た時からずっと考えてたんだよ、おれ。薮をボーカルで立たせたいって。」
真っ正面から俺を捉える大きな瞳。
俺は昔からこの瞳に弱かった。
それから、時折ストレートすぎる光の言葉にも。
ツンツンしている事も多いけど、光はいつだって隣に立つ俺の自尊心を守ってくれていた。
「そうと決まれば曲の構成から考えようよ！それぞれのパートは自分で作詞するとかさ、せっかくこの三人なんだし！」
明るい大ちゃんの声が後押しをする。
「…じゃあ、サビ以外は全部ラップってのはどう？」
光と二人でのレギュラー番組が終わってからお互いの近況を知る機会はぐっと減っていた。
今更それを気にするような関係じゃないと思ってたけど、今日光の考えてた事に触れて、ふと家に帰ってからあいつの真っ直ぐな瞳が瞼にぼんやりと浮かんだ。
ー光のやつ、最近何してんのかなぁ…
…そんなこと思ったって、付かず離れずの距離感がすっかり定着した俺たちは、休日に遊びに誘うことも仕事終わりにふたりで飲みに行くことも、今更なんとなく気恥ずかしくって
「この距離感がちょうどいいんだよな」
なんて、心のどこかで互いに牽制しながら、大人な顔をして笑い合うことしか出来なくなっていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 506人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みん(プロフ) - 299さんこんにちは。このお話、とても楽しく読ませて頂いています。もしよろしければメッセージにて個人サイトを教えて頂けませんか？ (2017年9月17日 21時) (
レス) id: 358e5c274b (このIDを非表示/違反報告)
ロコ(プロフ) - コメント失礼致します。続きを楽しみに読ませてもらってます。リアルなふたりっぽくてドキドキしちゃいます……今後の展開も楽しみしてますね。頑張って下さい！ (2017年6月21日 23時) (レス) id: e9f803cc8d (このIDを非表示/違反報告)
299(プロフ) - 奏さん» 奏さん。コメントありがとうございます！そしてものすごく返信遅れてすみません！！個人サイトなのですが、全てR18作品なのでこちらにURLを載せることができないんです(>_<)どうかご了承下さい！ (2017年6月19日 18時) (レス) id: 47228a528b (このIDを非表示/違反報告)
奏(プロフ) - すごくドキドキしながら読ませていただきました！これから先の展開がすごく楽しみです！もしよろしければ個人サイトの方も読んでみたいのですが、教えていただくことは可能でしょうか…？ (2017年5月4日 11時) (レス) id: 5f10e6a924 (このIDを非表示/違反報告)
light left(プロフ) - お返事ありがとうございます！メッセージはこみゅ〜にログインしていないので、無理かもしれません…。そのぶん、こちらの作品の更新を楽しみにしようと思います！これからもがんばってください(^^) (2017年5月1日 22時) (レス) id: 8e7c7aa763 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：299 | 作成日時：2017年4月28日 18時
