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2017年、晴れて大学を卒業した私、寺島Aは図書館勤務が決まっていた。
勿論そのつもりで準備をしてきた私だが、何故か今居るのは味の素NTC。
「すまない。待たせたね」
『いっ、いえ!』
緊張の最中、スーツ姿の男性が入って来た。
あれ、この人…
「俺の事、覚えてる?」
『は、はい。昴く…井上昴が緊急搬送された時の方ですよね』
見た事があると思ったら、一緒に救急車に乗ってオペが終わるのを待ったコーチさんだった。あの時の事は混乱しててよく覚えていないけど…そうか、あの時の…そういえば私の事も話した気がする。
「早速だけど今回は、その井上昴からの“一生のお願い”だ」
『?』
昴くんから…?わざわざ全日本男子のコーチさんに一体何を?
昴くんが居なければ私はバレーとは無縁の人間だったし、今も何故ここに居るのか分からない。昴くんの依頼?私に何が出来るの?
「バレーボール全日本男子の心の支えになってくれ」
2017年3月、昴くんがまた私の人生を変えました。
それはとてもじゃないが既に就職が決まっていた一般人には衝撃的で荷が重かった。表向きはマネージャーだけど少し違う職務内容は、簡単に言えば心理カウンセラー。悩みを抱える選手達の話を聞くのはメンタルトレーナーというよりそっちの方がしっくりきた。だけど私は臨床心理士でなければ、大学で心理学を専攻していた訳でもない。でもそれは先方も知っている上での事だった。
「もしこの話を受けるなら、君が嫌ならメディアに君の全てを明かさないようにする。相応の契約を結んで全面的に保証しよう」
『…でも、マネージャー、なんですよね』
「スケジュール調整等は別の人間がするからそれ以外…選手達の心のサポートをお願いしたい」
肖像権関係の保証はとても有難い。もしこの話を受けるなら私は異色の経歴となるだろう。昴くんとの過去は切っても切り離せなくて、そこを突かれたらおしまいだ。そんな日が訪れた日には、私は皆の前から姿を消しているだろう。
就任してもいないのに大袈裟すぎるプレッシャーをかけるネガティブの塊に果たしてこの大役が務まるだろうか。
「だがこれはあくまで井上昴の頼みだ。あいつに囚われず、君の答えを教えてほしい」
昴くんと出会わなければバレーボールを知らなかった。
『私は…』
これは、昴くんと、人生で一番苦しい時間を支えてくれたマサさんに…こんな形だけど遅い恩返しをするまたとないチャンスだ。
『やります』
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作者名:しおん | 作成日時:2019年10月26日 6時