少年少女の水色事件簿二冊目 (ページ42)

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8話ページ42

あくる日。
席に着いて朝食を食べていると、向かいに座っているシマ兄が味噌汁をのみながら、不思議そうに首を傾げた。

「何か良いことあったん？」

目を瞬かせると、口元がゆるゆるだと言われた。
箸を置いて、緩んだ口を元に戻そうと頬に手を当てる。

「あのな、初めての女の子の友達ができたんよ」

昨日のことだけれど、今でも夢じゃないのかちょっと不安になる。上気している頬の熱が手の平に伝わって、ほのかに熱い。
シマ兄が箸を落とした。

＊

教室に入ると、黒板の端に今井を見つけた。滅多に外さないフードを外して、そちらに向かう。

「今井、おはよう」
「おはよ、っえ、立花さん！？」

目を瞠る今井に首を傾げると、がしりと頬を掴まれた。

「ふみっ！？」
「綺麗な髪してるのは知ってたけど、こんな、こんな可愛い顔してるなんて」

上から覗き込まれて、ペタペタと顔を触られる。

「目も綺麗なスカイブルーだし、肌も真っ白、っちょ、なにこれ、すごいスベスベなんだけど！」

今井の傍で呆けていた女子達が僕の顔を見て、今井と同じように目を見開いて顔を輝かせた。

「そう言えば立花さんの顔、ちゃんと見たことなかったね」
「うわあ、睫毛長い！しかも綺麗に上向いてるじゃない！」
「前から思ってたけど、綺麗な金髪よね。自然にウェーブもかかってるし。これが地毛なんて信じられない」

偽りのない賛辞に目を瞬かせた。顔は何とか抑えているが、耳が熱い。
フードを被ろうとした手を、今井に取られる。

「ちょっとこっちに来なさい！ほら、ここに座って」

手を引かれて、窓際にある、"今井"と書かれたシールが貼られた席に座らせられる。

「素材がモデルばりに良いんだから、こんな雑な髪型は許さない。あなた達、わかってるでしょう？」

今井がそう言うと、彼女らはそれぞれ、櫛、様々な髪留め、リップクリームを手にした。
女子達は、昨日のマンちゃんと同じ顔をしていて、嫌な予感に口角を引きつらせる。

それから、休み時間に入る度に髪を弄られリップクリームを塗られ、昼休みに入ると他の教室の女子もやって来た。
僕にとって慣れないことばかりで、放課後になる頃には疲れ切っていた。

因みに、僕の髪を弄るのは習慣化して、これは卒業まで続くことになる。
そのおかげで元々速かった足が、逃げに関しては右に出る者がいなくなった。それでも女子の執念は凄まじく、逃げ切れることは一度として無かったが。