6話 �� ページ33
「そうしたら上杉君は、いきなり振り払って、怒鳴ったのよ。何するんだって！」
いや、それがマトモな反応やと思うけど。
「そんなことしたら、傷付くのは当たり前でしょう！？この子は、好意でやったのに。上杉君が好きだから、何かしてあげたい気持ちでいっぱいで、それがそう言う形になったんだから」
独善的な、ね。自分のことしか考えてへんやん。
「ありがとうくらい言ったって、おかしくないでしょ。それなのにあの態度って、ひどいと思う。許せない」
黒木は大袈裟に頷いて、上杉を振り返った。
「言い訳のチャンスをやるぜ」
上杉は、目を光らせて、皮肉るように笑う。
「要らねーよ」
黒木は小さく溜息を吐いて、女子の方に向き直った。
「上杉には、俺からよく言っておくからさ。それで君達、納得してくれない？」
再び小声で話し合って、初めの気が強そうなやつがハッキリと言った。
「本人から、この子に謝ってほしいの。でなきゃ納得できない」
僕は大きく息を吐いて、限りなく気配を薄くして早足でそいつに向かう。
若武が大声で言った。
「勝手なこと言ってんじゃねーよ」
瞬間、その場に怒気がみなぎり、集団の視線が若武に向く。
「何ですって！？」
黒木が慌てて若武の肩に手を置いたと同時、僕は憤って声を張り上げたそいつの肩に手を乗せて、爪先立ちをして耳元に口を寄せ、意識して声を低くする。
「ねえ」
急に表れた僕に、その場に居た全員が驚き、肩に手を置いた奴は、僕の手を勢いよく振り払った。
「なっ、何するの！？」
驚愕に目を見開いて言われた言葉に、わざとらしく首を傾げる。
「何って、そこの泣いてる奴と同じことだけど」
言いながら、片手を上げてみせる。
「さっきから、すごく怒ってたから。大丈夫かなって心配して」
そいつは、僕が手を置いた方の肩を抱いて、ありえないといったふうに言った。
「だからって急に触るなんて、信じらんない！」
「それ」
僕は心底不思議そうに言う。
「知らない人から急に触られて、吃驚したっていうの、上杉にも当てはまるでしょ。むしろ、お前より、試合で疲れ切ったところにやられた上杉の方が、吃驚したんじゃないの？」
言葉に詰まったそいつを一瞥して、泣いてる奴の方を向く。
「あと、泣いてる奴。さっきから一言も喋ってないけど、何しに来たの？女子の集団引き連れて、上杉を非難しに来たのって、お前？自分は泣くだけで、意見するのは他の奴って、お前、すごい性格悪いね」
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作者名：みずいろ。 | 作成日時：2021年6月24日 18時
