志村と僕 ページ2
「今日はありがとね。楽しかった」
女が巻髪を揺らして振り返る。キラキラしたアイシャドウの瞼を伏し目がちにピンクの唇からこぼす。
「大丈夫?吹っ切れそう?」
少し眉を下げながら、Aは相手の女の顔を見る。
笑顔と苦笑いが混じったなんとも言えない表情ではあるが、
「めちゃくちゃ腹は立つけど、前を見る!頑張る!」
そうガッツポーズを取った彼女を見て、女性は強いなと漏らし、Aはふっと安堵した表情を浮かべる。
するとその矢先に、
ピピピッピピピッ
どこからか小さな音でタイマーの音が鳴っている。
これが終わりの合図である。
「今回はご利用ありがとうございました。」
丁寧に頭を下げ、Aは彼女から約束の封筒を受け取り、さっきまで彼女だった人が見えなくなるまで見送る。
「あー。今日は終わり終わり」
んーっと伸びをしながら背骨を左右に曲げてストレッチを行う。バキバキと音を立てる背中をさすりながら帰路につく。
僕はレンタルパーソンという会社をしている。
社長で唯一の社員。いわゆるレンタル彼氏彼女だ。まあ友達や家族ってパターンもあるが。
さっきの彼女も元カレに浮気をされたらしい。
あんな美人の彼女がいながらも浮気するなんて馬鹿な奴だよな
そんなことを考えていると前の方に見知った姿を見つけ僕はそこに向かって小走りに駆け寄る。
「新ちゃーん!」
名前を呼ばれたその人は立ち止まり振り返る。
「Aくん!」
「新ちゃんおかえり。今帰り?」
「ただいま。そうだよ、Aくんも今?」
おつかれと互いに言い横に並んで歩く。
彼は志村新八。家が近所で彼の道場で剣術を学び、年齢は違えど幼馴染である。
「新ちゃんは今は万事屋…だっけ?儲かってるの?」
「儲かるわけないよ…あんなマダオが社長なんだもん…」
ため息をつきながらくいっとメガネを定位置に戻して新八が嘆く。
万事屋事情は新八からの情報とお客からの小耳に挟んだ情報でぼんやり知っている。
「Aくんは?最近よく街で見かけるけど…」
「まあまあかな〜。いつもありがとうね、知らん顔してくれて」
Aは仕事中に知人に話しかけられる事を嫌がっており、旧友の新八はよく理解してくれている。
「僕の明日は誰かのものだから」
Aはクスッとイタズラに笑いバイバーイと手を振った。いつの間にか家の近くに来ており新八はばいばい。と赤くなった顔で旧友の背中を見送った。
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作者名:アバランチ | 作成日時:2022年7月16日 23時