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あれは、進軍の際の移動休憩の時だった。
彼、山本は階級的には自分より一つ上の上等兵だったが、元々同期であり、互いに堅苦しいのは嫌った為、ごく普通に話していた。
『なぁ山口、お前出身は何処だ？』
『東京の小石川』
『…苗字が山口だから山口かと思った』
『何だそりゃ。…山本は何処の出身なんだ？』
『俺は新潟だよ。…あはは、おっかし』
『？』
『新潟は海軍の山本五十六長官。お前のとこは山口多聞少将の出身地だ』
『お互いに海軍さんの有名人と同じ名字で、しかも同じ出身地なのに、何故か陸軍に来てるわけだ』
ははは、と彼は笑った。特に面白い冗談でも何でもないのだが、彼につられて表情が緩んだ。
その時だった。
伍長殿の、伏せろ、という言葉を上書きする戦闘機の機銃掃射の音が俊足でやって来た。ほぼ反射神経で脇に避けて小さくなると、ズドドドドド、という発射音と、カカカカッと地面で跳ね返る弾の金属音。地面がわずかに揺れ、周りが熱を帯びる。その一方、すっと心臓の熱が冷めるのがわかった。
歴戦の軍曹殿や伍長殿は岩を屋根に利用した場所から冷静な眼差しで上空を伺っているが、やはり自分はこの恐怖には慣れない。
プロペラの回転音が過ぎ去ると、すん…と辺り一帯が静まり返った。
はっと我に帰り隣を見る。
機銃の跡の線上に、彼と、数人の兵が横たわって血を流していた。
彼はうつ伏せになり背中から胸を貫かれ即死していたが、わざわざ抱き起こしてどんな表情をしているか確認するなんて、とてもじゃないが怖くてできなかった。
この時から、何故か自分の心は冷えた。
ああ、死とは儚いものだと一人悟った。
…本当に、妙に冷めていた。
遺骸は此処に置いていけ、と軍曹殿に言われた。
…簡単に言えば、動けない者を連れて行っても役に立たないという事だ。
.
我が部隊に玉砕命令が下されたのは、その一週間後であった。
「死人」
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作者名：嵩画@ブレリオ式単葉機 x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年9月9日 22時
