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プロローグ ページ1

*


「人殺し」

闇の中でひそひそ囁き合う声が聞こえる。

敵を殺してなにが悪い。
やらなきゃ、此方がやられるんだ。
自分は国の為に、家族を守る為に戦ったんだ。
国は組織であって、一つの個体じゃない。幾万、幾億の人間で構成されてるんだ。
自分達が戦わなきゃ、誰が戦う。
…そういう理由で戦っていた、筈なんだ。

「人殺し」

囁き声が大きくなる。

でも結局、敗けた。
あの日本は死んだ。
…いや、もしかすると、これが日本の元の姿なのかも知れない。生まれた時にはもう戦をやっていた、という人間が増えて、在るべき形の日本を忘れた_見失ってしまったのかもしれない。

「人殺し」

その声達が、山口の周りを伝染するように広がる。

帰還した兵士を、一部の人はこう指弾した。
おかしいな…自分は、この人達の為に戦っていたはずなのに。
自分の戦った意味とは何なんだ?
自分は何の為に戦っていたのか?
自分が生きている意味とは何だ?

「人殺し」

山口は思わず耳を覆って立ち尽くした。

気付かぬうちに、自分と同じ立場の人間は皆被害者になり、軍上層部が加害者になった。
…違う。違う違う、違う、違う?俺は加害者だ。
俺は、人を殺してるんだ。
わかる。余裕のある今ならわかる。あいつらにも、家族が居たはずなんだ。
俺みたいに帰還して、「ただいま帰りました」と言うはずだったんだ。
その台詞を、俺は奪ったんだ。

「人食い」

生きて帰る為だった。やらなきゃやられていた。
話し合いも恐らく無駄だった、あれは、殺らなきゃいけなかった。…本当に?
…ああ、もう、何が何だかわからない…

すると、突然ひそひそ声が止まった。
一瞬、何も考えられなくなった。
自分の周りの時が停止したような気分だったが、それも一瞬。足を付けていた、地面らしき場所が無くなったと思うと、矢継ぎ早にやってきた不思議な浮遊感に背筋が凍った。

思わず腕を上に伸ばして声を上げたが、何故か声が出ない。どんなに頑張っても、息の声しか出せない。…なんだか、気が、遠くなる…。

…そういえば、何故自分は、こんなにもがいている?何故腕を伸ばそうとする?声を出そうとする?

ああ、やっぱり自分の生への執着は、人一倍強い。


___もう、一度『死んだ』のにな。
遠のいて行く意識の中で、誰かがぽつりと呟いた。

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作者名:嵩画@ブレリオ式単葉機 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年9月9日 22時

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