【小説企画】ヒストリーマンション (ページ19)

今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:9,195 hit

19話【源頼朝】ページ19

106号室。番号から分かる通り、
ロビーからそのままいける一階の部屋だ。

「まさか兄上がいるとは思わなかったな」

無表情で歩く頼朝の後ろを、
何やら愉しげな義経が跳ねるようについてくる。

「まさか朝から愚弟の顔を見る事になるとはな…」

「愚弟愚弟って煩いなー」

そんな、あの時代だったら出来ないような会話が
成り立つ中で、頼朝の心境はとても複雑だった。

なぜ、殺した相手にこれほどまで明るく接せる？

それを考える度に、罪悪感に胸を締め付けられる。
いや……ならば考えなければ良いだけの話。

「一○六号室。此処がお前の部屋らしいぞ」

そう言って扉を開けてみせると、中を覗いた義経が興奮気味に「広ーい！」と言った。

「あとから与一の奴が部屋の説明をしてくれるだろう。それまで部屋でおとなしく待っておれ」

「我が大人しくしているとでも？」

「……そう言うと思ったわ……。出てもいいが、
部屋番号を覚えておけ。絶対間違えるなよ。」

「御意！」

義経に背中を向けて、部屋を後にする。
一回のロビーまできて、立ち尽くしている与一に声を掛けてみる。

「与一、どうした」

「あ、義経兄さんの愚兄さn「ひねり潰すぞ」すいません……」

与一は悪態付いた顔でニッカリ笑うと、すぐに真面目な顔付きに戻った。

「頼朝さん、ちょっとあの方々どうしましょう」

「何がだ…。……”しんせんぐみ”という輩か」

「なんか雰囲気が怖いです」

「与一、行って参れ」

「…………はい、やっぱり管理人が行かなきゃダメですよね、あはは」

死んだ魚の目をする与一の背中を看取って←
そのままとてつもない雰囲気のロビーを離れ、裏口から外に出た。

「……新芽付いてきたな」

と、数歩近くの新緑に包まれた木に近寄った瞬間、
ドッと脇から衝撃を受けて、その場に尻餅をつく。

「い……」

「あ、す、すみません…！私とした事が……」

尻餅をついたまま、その声のする正面を見ると、
着物を着た女性が自分と同じように尻餅をついていた。

「あ、いや、すまぬな…。怪我は？立てるか？」

すっと立ち上がって、尻餅をついたままの女性に手を差し伸べた。