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夜道を歩く時に隣に誰かがいるのは珍しくて
その感覚がくすぐったかった
黙ったまま歩いていれば「なぁ」と
先に口を開いた水上に反応して顔を上げた

「殴られそうになるってお前なにしたん?」

『手首掴まれてしつこいからみぞおち辺り殴った』

「……案外物騒やな、そら怒るわ」

「お前ならもっと体よく断れたやろ」と言う水上に
何か言い返そうとしても言葉が出てこなかった
『まぁ…そうなんだけどね』と
今は乾いた笑みしか作れなかった
水上の言う通りいつもの私なら
相手を挑発せず穏便に済ませられたはずだ
でもそんな余裕がなかった
言い訳だと言われてしまえば何も言い返せないが
それくらい自分の気づかないうちに焦っていたのだ

『でも助けてくれてありがとう、ほんとに助かったよ』

「まぁ…あんな胸糞悪いもん見せられたらな」

人の感謝をなかなか受け取ってくれないのも
水上の好きなところだった
自分は人に与える癖に
他人からの感謝も愛情も受け取らない
まるで自分がそうしたいからしたというような
そんな隠れた優しさを持っている
そんなことを伝えれば
それすらも否定されてしまうのだろう
人から気づかれ辛いその優しさが
報われて欲しいときっと本人は思っていない
でも私は君の優しさに気付く人が
もっと増えて欲しいと思うと同時に
独り占めできることの嬉しさも持っている

「その…なんや、お前の…」
水上にしては珍しくすらすらと言葉が出てこない
何か聞きたいんだろうな首を傾げた

「雨宮の人間やないっちゅうのは…」

やっぱりそのことかと納得した
きっとみんな思っていたのだ
どうしたって似ていない容姿に性格
どこを探したって共通点なんて見つけられなかった
違和感を抱くことも疑問に思うことも
なんも不思議な話しではない
ただそれが分かっていても
実際目の前でその事実を知った時
驚いてしまうものだとみんなの反応を見て思った

『そのままの意味だよ
 私は雨宮の人達と血が繋がってない』

私にとってそのことで悲しいと思ったことがない
それ以上に雨宮と名乗ることの方が嫌だった

「なら、お前のほんまの名前ってなんなん?」

『………結城』

書類上は雨宮が正式な私の名前なのだけど
私が好きだったこの名前を水上が聞いてくれて良かった

2人だけの時間→←見つけた光



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作者名:lei | 作成日時:2023年9月15日 23時

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