夜明けが希望でありますように (ページ33)

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水上side

『ボーダーって楽しい？』

世間話をするかのように
彼女は俺の手元に視線を向けたまま聞いてきた

「楽しい、なぁ…
　ボーダーは俺にとって仕事やねん
　趣味程度でやってるもんとちゃう
　それに楽しいも楽しないもあらへんやろ」

周りからしたら少し冷たく感じるその言葉に
彼女は笑って『そっか、良かった』と返した
その笑顔がすごく綺麗だと思ったのは誰にも言えない
俺だけの秘密にしないといけないと思った

『ねぇ、水上って呼んでいい？』

人の呼び方なんて
自然と変わっていくものだと思っていた
仲が良くなればあだ名でも名前でも
いつも間にか気付いてたら
変わっているものではないのだろうか
そう言おうと思って口を閉じた
真っ直ぐに目を見てくる雨宮に
自分からすればどうでもいいことでも
彼女からすれば違うのかもしれないと思った
合わせていた目線を外して
「好きにしたらええんちゃいます？」
そう言えばクスクス笑って『ありがとう』と
またあの綺麗な笑顔を俺に向けた

2年になってすぐ雨宮もボーダー隊員だったことを知った
しかも俺よりもずっと前に入隊し
ブラックトリガーを使っていた
驚いたしなぜあの時言ってくれなかったのかとも思った
やっぱり雨宮は掴めないやつだと感じた

3年に進級して同じクラスになって
珍しくこんなことで嬉しいと思った
でもそこにいたのは俺の知っている雨宮じゃなかった
元々作った表情をしていることは分かっていた
それでも常にそうではなかったし
ここまで人に気を使うようなことはしなかった
教室に緒音ちゃんがくるようになって
それは前にも増して酷くなった
そんな姿を見たいわけではなかったし
何が彼女にあったのか気にならないはずがなかった