好きだから近づかないで ページ11
机の中に教科書やペンケースなど
スクールバックの中のものを移動していたおかげで
抱えているバックは軽かった
教室から離れたくて体育館に繋がる渡り廊下を走り
体育館裏に着いたところで走る足を止めた
壁に手をついて肩で息をしてズルズルと座り込んだ
体力切れなんてものではない
極度の緊張から解かれたような感覚だった
膝を抱える手は震えていて大きく息を吐き出して
顔を下に向けた
誰もおらず誰からも知られないこの空間が
やっと自分を落ち着かせてくれる
日常の中で気を張り続けるのは
4年前から私に張り付いた癖のようなものだった
ただたまにそれが限界になる時があるのだと思う
教室の中では誰にでも優しく教師からも信頼される優等生
妹の前ではあの子が求める姉
そうやって隠して誤魔化して
やっとできたものは本当の自分とは程遠いものだった
こんな人になりたいと憧れたような人物像でもなければ
周りにそんな人がいたわけでもない
求められる自分を
その要望に合うように作り変えただけ
ここに本当の自分というものは存在しない
今日はほんの少しだけ顔を出した本当の自分を
抑えられなくなっただけ
時間が経てばまたみんなの求める雨宮Aに戻れる
だから大丈夫
「はぁ…こんなとこおった」
だから追いかけてこないで
『水上…』
腰に手を当て肩で息をしている水上は
私の隣に座り片足を立てもう片足を伸ばした
そのまま何も言わずにじっと動かない
その沈黙に耐えきれず先に声をかけたのは私の方だった
『なんで…来たの』
「何言ってん、俺が来たとこにお前がおっただけやろ」
『こんなとこおったって言ってた』
「さぁ、なんのことやろ」
水上の額にうっすらと滲んだ汗に勘違いしそうになる
水上からすれば私はどうでもいい存在なのだと思っていた
私に興味を示さないことは多いし
刺してくるような鋭い視線を向けられる時もあるし
毒を吐くこともある
嫌われているのだと分かっていても
彼を好きな想いは変わらなかった
ただのクラスメイトであれば楽だったのに
ここが体育館裏で良かった
薄暗いここは彼から私の顔は
はっきりと見えていないだろう
また笑顔を作れるようになるまでもう少し時間が欲しい
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作者名:lei | 作成日時:2023年9月15日 23時