四十五話 ページ46
緊迫した時間が流れる。
嫌な汗が背中を伝い、緊張が走る。
｢……もし優君とお付き合い出来たとして、琥珀が男児を授からなかった場合は？｣
『……その時は、結婚は諦めて道場の指導を続けます。ただ、当主は琥珀として……経営は琥珀に任せたいのです』
｢優君がお前を拒んだら？｣
なんて嫌な想像をさせるんだ、この人は。
『……その時は、全て諦めます。予定通り、私が道場を継いで私が当主となります。
……お父様や、お母様の持ってきた縁談も受け入れます』
石上くんが私を拒むなら、この人生に意味なんてない。
恋は盲目、私はこの初恋に文字通り人生を賭ける。
石上くんが私を受け入れるか、拒むか。
愛のある結婚が出来るかどうか否か。
琥珀に男子が生まれるか、女子か。
石上くんの家へ嫁いで、主婦として幸せをつかみ取れるか、否か。
『お話は、以上です』
｢……ふむ。道場の指導は続けてくれるの？｣
『はい、勿論。綾小路の流派を絶やす訳にはいきません』
綾小路は全ての武芸に直轄する流派だ。日本の基となる武芸を私の私情で絶やすなんて事は絶対にあってはいけない。
『だから、お願いします。お父様、私に女としての幸せをください』
結婚は女の幸せ。
女は男の三歩後ろを着いて歩き、男に尽くし、その人生を美しく散らす。
それが女性のつとめ。
私は古風な考え方しか出来ない。
実家が古いから、教育も必然的にスパルタで古いやり方になるのだ。そう、まるであの四宮家のような。
今は先進的な教育を取り入れているけれど、その根本にあるのはまだまだ古いとしか言いようがない価値観。
だって仕方ない。分からないものは分からないんだもの。
だからこそ、生徒会には感謝している。客観的に自分の考えを見直す事が出来るのだから。
｢良いんじゃない？Aがそれで幸せを感じる事が出来るなら、私達は何も言わないし望まないよ。
二人で勝手に幸せになってくれって感じだね。綾小路流を存続してくれるならそれ以上の事は無い｣
感無量だ。
お父様に認められた。ダメとか無理とか、変な契約だとかにならなくて良かった……
良かった、これで心置き無く……
心置きなく、石上優を全力で落とせる。
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作者名：白米 | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時：2021年3月10日 23時
