四十四話 ページ45
『お父様。大事なお話があります』
私は特に何も考えてなければ結構流暢に喋れる。
ただ、いつも考えすぎてるからゆったりになっちゃうだけなのだ。
こういう大事なお話をする時には、頭を空っぽにして、そう……
『私はクラゲ、クラゲなの〜』
｢ん？どうした、クラゲなのか。今日はクラゲ料理にするか？｣
『違う、そうじゃない……』
うう、いつもこういう事をしてしまう！
大事なお話がある時は出来るだけ言葉をつまらせたくないのに……！
『お父様、蓮の間で話したい事があります』
｢あぁ、あそこか。あそこを使うのはいつぶりだったか。Aが家を継ぎたくないと愚図った時以来かな？｣
あぁ、あったなそんな事……
12、3歳の頃かな。周りがきちんと自分の家柄を自覚し始めた頃の……
『その、言いにくい事なのですが』
｢畏まらなくていいよ、ここには私とA以外誰も居ないんだから｣
お稽古の時以外は優しいのになぁ、一旦稽古が始まると鬼になるんだもんなぁ……
『いえ、仲睦まじい親子である以前に……お父様と私は当主と嫡女の関係です。
目上のひとには敬語を使うよう教育係から申し付けられております』
教育係に逆らうなって言ったのはとーさまだもんね！
｢……私の教育の仕方がいけなかったのかもしれない。
……で？話とはなんだい｣
『……申した通り、言いにくい事なのですが……
す、好きな人が、出来まして』
｢……近頃耳が遠くなったようだ。もう一回言ってくれ｣
『だから、その……好きな人が出来ました』
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。脳内にそんな音が流れる。
とーさまは固まり、蓮の間にはししおどしの音が響いた。
｢……何処の馬の骨だい？｣
『……たまにうちに遊びに来る、石上優くん……です』
｢……あぁ！なんだ、優君か！優君なら大歓迎だ、今ご両親へ挨拶に行こう今しかない。直ぐに入籍だ｣
『お父様、犯罪です』
残念だけど、石上くんはまだ結婚出来る年齢じゃないのだ。
｢それは残念……で？今更そんな事を言ってきて、なんのつもり｣
ゾクッとした。全て見透かされてる気がする……
『その、あの……家の道場は継ぎます。でも、その……もし、琥珀に跡取りが産まれたら……
もし、私が石上くんと付き合う事が出来たら……私は石上くんの家へ……』
弟が結婚し、子供を授かり……もし、その子が男子だったら。
『石上くんの家へ、嫁ぎたいです』
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作者名：白米 | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時：2021年3月10日 23時
