西の恋の淵で。 (ページ9)

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数年前、大切な人が消えた。

俺は親が戦争に巻き込まれ亡くなってから孤独だった。
親戚の家をたらい回しにされ疎まれる日々。

そんな時に入った孤児院で神ちゃんと出会った。
そこからの毎日はとにかく楽しくて、幸せだった。
いつしか俺にとって神ちゃんは家族でも恋人でもない、もっと特別な存在になっていた。

「大きくなったら軍隊に入って
　俺たちみたいな子どもを無くそう。」

それが俺ら2人の口癖であり夢だった。

神ちゃんは、国のため敵を殲滅することが正義だと言った。
その逆で国を捨てて逃げること、諦めること、
そして敵の存在そのものが紛れもない悪だと言った。

国や軍隊をあまりに盲信的に信頼する姿を見ていると、
いつか彼が遠いところへ行ってしまうのではないか、
離れていってしまうのではないかと恐怖を抱いたが
それと同時に彼のそんな熱いところが好きだった。

そんな風に日々を過ごしていたある日、神ちゃんが院長に呼ばれた。
その身体能力の高さが目に止まり国から声がかかったらしい。

その日から神ちゃんと一緒にいれる時間は日に日に少なくなった。
顔や体に怪我をしてくる日もあった。
それでも帰ってくる神ちゃんの顔が生き生きしていたから。
神ちゃんが幸せならオレも幸せ、
これで良いんだと自分を納得させた。

ただその幸せは長く続かなかった。

吐血、吐き気、倦怠感、過呼吸、胸痛。
神ちゃんの体に次々と異変が起こり始めた。

最近になって知った話だがこの国の軍隊の強さは
決して外に出せないヤク物投与や人体実験の賜物だったらしい。

孤児院に帰ってきては苦しみ悶える神ちゃんの姿を見るのが怖かった。
何もできない自分の無力さが悔しかった。