西の恋の淵で。 (ページ10)

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苦しい時間を過ごしていたある日、
軍の任務から帰ってきた神ちゃんの様子がおかしかった。
いつもとはまた違った苦しそうな表情をしていた。

神ちゃんの苦しさをなんとか半分こしたいと思った。
一緒に抱えたいと思った。

「神ちゃんどうしたん、なんかあったんやろ？」

神ちゃんは俺の問いかけに目を伏せ、
話すことを躊躇うかのように
2度3度と口を開閉したあとに言葉を紡いだ。

「___昨日、人を殺した。子どもだった。
　軍隊でもなんでない、ただの子どもだった。」

あまりに弱々しい声だった。

なんでそんな事態に陥ったのか、それはいまだにわからない。
ただ、その言葉を聞いて俺は何も言わなかった。
いや、言えなかった。

何か言葉をかけるべきだった。
彼の手を離さまいと強く握っておくべきだった。

明朝、彼はまた孤児院を出て行った。
それ以降、彼が帰ってくることは一度もなかった。

「なあ、しげ。
　_____正義って何なんやろうな。」

孤児院を出る直前、最後に聞いた彼の声が、言葉が、
今も色褪せることなく耳に残り続ける。
俺はあの日に囚われたまま今も彼の姿を探している。