第三話：後半 ページ8
家族、仲間、ファン、実況者――からのおうえんだった。
時は流れたがあのときの
※
世界のトップをかけた試合で、Aにチャンスがやってきた。
相手選手のパスをカットしようと、まっすぐなロングパスに立ち向かう。
ボールに線があるのならば、中心の線をけるようなキック――。
ボールのいきおいを利用して、より強く長く速く相手チームのゴールへと、けり返した。
その
『おおーっと！ A選手にはばまれました！ その姿はまさに、
ファンたちも彼の名前を何度もさけび続ける。
よってきた味方選手に、もみくちゃにされるA。
今はもう――彼らはいない。
たとえ――彼らがいなくとも。
※
今のAにはすくなくとも、一郎太と円堂がいる。
これ以上、かっこ悪いところを見せるわけにはいかない。
「兄さん、円堂、次は必ず成功させるから。私のかっこいいところを見逃さないでよね！」
「おおっ！ そうこなくっちゃな！ それでこそ、俺の知るAだ！」
「やれやれ……」
Aの本性に対して、二人の反応は違うが「嬉しい」という気持ちは同じだった。
やっと、彼女が目を覚ました――と。
期待をこめて、一郎太が強くボールをけりとばす。
「受けてみろっ！」
Aは無言でかまえる。一郎太から目を離さないまま、右足はボールをとらえた。
「なにっ！」
「よしっ！」
二人はまるで、Aの兄のようで――妹の成長におどろく兄もいれば、よろこぶ兄もいる。
「『サムライトリック』ッ!!」
前世の実況者が語ったイメージが
刀のような足にきられ、ボールが上下二つに割れた。
それはあくまでもまやかしであり、Aの足が白黒のまだら
「ははっ！ Aの勝ちだな！」
「待て、円堂。勝負していたおぼえはないぞ」
「どう、円堂？」
「くーっ!! かっこよかったぞ！ A！」
円堂の心からのほめ言葉に、Aはにっこりと笑う。
それは、止まっていた時間が動きだしたようだった。
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作者名：ヤナギカエル | 作成日時：2021年2月21日 20時
