第二話：後半 ページ6
鈍感な円堂たちと違って、気をきかせた秋がAに水筒やら、おにぎりを持たせて、一郎太の方へとさしむけた。
「風丸ばっかり、ずるいでやんす」
「兄妹だから、しかたねーんじゃねーの」
じだんだをふむ栗松に、染岡は呆れる。
「ああ！ あいつらは昔から仲がいいからな！」
強引に入ってきた円堂の言葉を信じず、半田たちは二人のようすを観察していた。
「まるで恋人だな」
「たしかになぁ」
他の部員と比べ、やや平凡な少年半田のつぶやきに、爆発したような髪型の宍戸があいづちをうつ。
「ヤボなことはやめといたほうがいい」
一人クールな豪炎寺に止められ、一瞬むすっとするも、あきらめたようだった。
※
「兄さん、どうぞ」
「ありがとう。A」
言葉にせずとも、目線に誘われ、一郎太と同じベンチに座る。
「あれでもだいぶ、おしとやかになった方なんだぜ！ 昔はヤンチャでさぁ――」
円堂の無神経な大声が、二人だけの世界をぶちこわした。
「あれって――」
「お前のことだろうな。俺が止めてくる……おい、円堂！」
ビシッと手を伸ばして、円堂の話にストップをかけた。
怒る一郎太に気づいた円堂が、二人の元へかけよってくる。
「どういうつもりだ、円堂？」
「いや、だってさぁ。俺。Aがずっとそのまんまなのはいやだぜ？」
「なに？」
「A。俺、いつまでも待ってるからさ。サッカーしたくなったらいつでも言えよ！ 俺、お前とまたサッカーしたいんだ！」
「うん……分かった」
前のめりになった円堂とAを一郎太が引き離した。
「おっと？」
「兄さん？」
「こいつの兄は俺だ。昔からお前は……変わらないな」
「ありがとな！」
「ほめてない！」
「ふふっ……」
つい、笑ってしまったAに二人の視線が集まる。そのささやかな笑顔がかわいらしいと、ほぼ部員全員の注目の的になっていた。
「俺にも妹がいるから分かる。誰にも負けたくないもんだ」
豪炎寺の言葉に共感する者と、疑う者で半々に分かれる。それを秋は半目でながめていた。
「秋さん、秋さんっ。お二人の関係、気になりますよねっ」
「春奈ちゃん、ほどほどにね」
「はいっ！ もちろんです」
頭にメガネをつけた少女春奈がウキウキとした調子で、秋に話しかける。
もどかしい二人の関係に一番、頭を悩ませていたのは秋だった。
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作者名：ヤナギカエル | 作成日時：2021年2月21日 20時
