第一話：後半 ページ4
「Aちゃん。風丸くんが呼んでるみたいだよ。いいなー、風丸くんみたいなお兄ちゃんがいて」
「……ありがとう。つくしちゃん」
Aは、つくしの冗談をすりぬけて、放課後にむかえに来てくれた兄に会いに行く。
「兄さん。廊下から、呼んでくれたらよかったのに」
「円堂じゃあるまいし……」
一郎太にとって、Aが友達ではなく、妹だということも関係しているのだろう。
「A。さっさと行くぞ」
「待って、兄さん――」
早歩きで校舎の玄関を目指す陸上部兼サッカー部員である兄を、走って追いかけた――。
※
「今日は来てくれてありがとな！ 風丸……じゃなくて、A」
円堂のしまらないセリフに、横に並んだ部員たちは脱力した。
「わりぃわりぃ、いつもは風丸って呼んでも困らないからよ。な！」
「ああ……そうだな」
話をふられた一郎太が気まずそうに言葉を返した。
学校では、双子が距離をとっているとはっきり、本人に言ったからだ。
「ところでよ、Aはサッカーしに来たのか？」
「バカ言え円堂、女がサッカーなんてするわけねーだろ」
「Aさんにはぜひ、サッカー部のマネージャーになってほしいでやんす」
「俺もそう思うッス」
坊主頭で
二人に同意するのは、大柄で丸いパンチ頭の壁山だ。
「おい、お前ら。勝手に決めつけるなよ」
「円堂の言う通りだ」
正義感の強い、バンダナを巻いた少年――円堂と一郎太がAをかばうように、三人の前に立った。
三人は「キャプテン」と口をそろえて、大人しく引き下がった。
「円堂くん……。兄さん」
「チッ、悪かったよ」
「すまないでやんす」
「調子に乗りました。ごめんなさいッス！」
いつもと比べて素直な三人の姿を見て、円堂は父親のように満足げだ。
「私は……大丈夫、です」
不安はぬぐいきれないのか、かげりのあるAの表情に一郎太の顔は、けわしくなる。
「さーて、自己紹介が終わったところで、お前ら、練習に出かけるぞ！」
かっこいいところをアピールしたいと男子たちは「おー！」と、力強く声をあげた。
そんな彼らを見て、一郎太はあきれながらも、走っていく。
「Aちゃん。うちのが……ごめんね。本当に大丈夫？」
秋の言葉にAはうなずくしかなかった。
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作者名：ヤナギカエル | 作成日時：2021年2月21日 20時
