第一話：前半 ページ3
その日の夕方、風丸家では――。
風丸家の
原因はAの兄、一郎太だ。
陸上部だったころよりも、ボロボロのヘトヘトで帰ってくる一郎太の変化を、両親はポジティブに受け止められず、気をもんでいた。
「今日さ――円堂が言ってたんだけど……やっぱ、なんでもない」
一郎太は今日の出来事を話したい気持ちはやまやまだが、それでも「サッカー」という単語をださずに会話を続けるのは難しいと感じたのか、勝手に話を切り上げた。
「えっと、兄さん……」
「なんだ？」
妹の話を聞こうと、右腕にハシ、左腕にごはん茶わんを持った状態のままストップする。
まさか、Aにバレバレだとは気づいてはいないようすだ。
「私、サッカー部を見に行ってもいいかな」
「えっ!? やめ――、どうして……俺に聞くんだ？ サッカー部のことは円堂に聞くべきだろう。あいつも断らないと思うし」
一郎太の茶色い瞳が
「円堂くんに聞いたら『風丸にも聞いた方がいいぜ、お前ら兄妹だろ？』って――言われたの」
そのときの円堂がどんなに純粋でひたむきな顔をしていたか、一郎太にも想像できたのかゴクッとつばをのんだ。
ハシと茶わんを置き、両手をひざの上に置いた。
「実は――」
※
サッカー部の出来事に、両親は胸をなでおろしたり、顔を青ざめたりと忙しいがむりもない。
「A、知っててだまってくれたんだな……。その、ごめん……ありがと……。……ッ！」
一郎太は、ばつが悪そうに顔をそむけた。
今まで、家族にうまく隠せていなかったことがはずかしく、照れているようだ。
新しい目標を見つけた息子に対して、両親がそれぞれ感想をのべる。
「円堂くんがサッカー部のキャプテンにねぇ。円堂くんらしいじゃない」
「一郎太。円堂くんと同じ部活に入れてよかったじゃないか。一郎太には、サッカーも向いてると思うぞ」
「……ふん」
顔を赤らめているのを見ると、母と父の言葉に気分を害してはいないらしい。
やっと落ち着いたのか、すっきりとした顔でハシを持ち始める。
「A。円堂には、お礼を言わなきゃな」
「そうだね。兄さん」
双子の笑顔を見れてよかったと、両親は二人の成長していく姿をほほえましく見守る。
はずむ会話のさなか、Aは一郎太に、必ずサッカー部を見学すると約束したのであった。
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作者名：ヤナギカエル | 作成日時：2021年2月21日 20時
