第八話：前半 ページ17
「A、俺たちは勝ったぞ。……くっ」
「兄さん……!?」
選手控え室から、きがえて出てきた一郎太がよろめいた。
Aの方へたおれこみそうになるのを、男のプライドでこらえる。
ボロボロなのは一郎太だけではない。
それだけ、この戦いがはげしかったことをものがたっていた。
「兄さん、おめでとう。かっこよかったよ！」
「A。ありがとう。……でも『おめでとう』は優勝まで、とっておいてくれ。俺たちは必ず優勝する……！」
「うん、分かった！」
今度こそ、たおれそうになった一郎太をAが横から支える。
「……っと、悪い」
「えへへ、兄さん……お疲れさま！」
帰りの電車の中、一郎太はAの前に
※
その日の夜、Aは
兄と両親はもう、ねているだろう。
「A。こんな夜おそくに一人でどこに行くんだ？」
「わっ!?兄さん、起きてたの!?」
「おどろかせて悪かったな。帝国に勝てたのが夢みたいで、ねむれなかったんだ」
そう言うと一郎太はやさしくほほえんだ。
「A、お前もか？」
「うん。私もだよ。同じだね。今から公園に行こうと思ったんだけど、兄さんは？」
兄はくつひもを結び始める。
それが、妹への合図だった。
「俺も行くよ。夜に女の子を一人で歩かせるわけにはいかないからな」
「ありがとう。兄さん」
今日の一郎太は思ったことをそのまま言う、ストレートだな。
と思ったAは兄の顔をじろじろと見た。
思いあたるフシがあるのか、Aの
「俺はお前の兄だぞ。もっと俺をたよっていい。なにかあったときは、俺がねてても起こしていいぞ」
「うん！ 分かった」
感
「兄さん、大好き！」
ただ、この言葉までは予想していない。
「……っ！俺、も……」
顔を赤くした兄妹が公園についたとき、サッカーボールと人かげが見える。
その正体は、リフティングをしていた円堂だった。
「なんだ！ お前らも来たのか！ もしよかったら――」
三人はあくびがでるまで、夜の公園で帝国戦の感想を言い合っていた――。
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作者名：ヤナギカエル | 作成日時：2021年2月21日 20時
