ヌ レ ル __ 。 [inym]

【４５】泣いたワケ _ Iside ｡ ページ45

「うぇぇ……っ、ふっ、うう……」


「山ちゃん、落ち着いて？ねっ？」



ぐしぐしと目を乱暴に擦りあげる山ちゃんの手を奪って、涙を流していく瞳を見つめる。

すれば山ちゃんは唇をギュッと噛んでからまた、大粒の雫を頬へと落とした。



「ぃ……っ、伊野尾ちゃん……がっ…っふ、」


「お、俺……？」


「伊野尾、ちゃんがぁ……っ、ううぅ…っ、うー…」


「えぇ…山ちゃん、泣かないでよー…、俺が何…？」



涙の理由を語ろうとする山ちゃんの口から出てきたのは、まさかの俺の名前。

それに戸惑いが隠せずに言葉を探していれば、ぐすぐすと小さい子供のようにしゃっくりをあげた。



「伊野尾ちゃん…、がっ……」


「うん、俺が何？」



縋るような瞳に押されて、一言一句取りこぼさないように見つめ返す。

そして眉を歪めて一つ間を置いた後、山ちゃんはこう言った。



「伊野尾ちゃんが……居たからっ…」


「……ほぇ…？」


「伊野尾ちゃんに……会いたかったです…っ…！」


「うわっ、？」



鼻声になって伝う言葉を俺が理解すると同時に、いきなり抱きついてきた山ちゃん。

俺は仕事疲れのショートしそうな思考を必死に働かせて意図を汲み取っていく。


俺に……会いたかったって……



「山ちゃんはそれで……泣いてるの…？」


「だっ…てっ、まさかっ…会えると思ってなくて…」


「だから、俺に会えて、泣いちゃった……？」


「…っ、はいっ……急に、ごめんなさい…っ、」



なに……その可愛い理由……。


現在残念ながら理解する脳は持ち合わせていないも、今の山ちゃんの言動がとてつもなく胸へ刺さっていることは確実に分かる。

それはジワジワと嬉しいような感情が胸を満たし、抱き締め返したくもなった。


けれどそれも少しの間で、正気を取り戻したのか山ちゃんは徐々に距離を置くように離れていく。

俺はそれを慌てて引き止めるように掴まえて、山ちゃんが逃げてしまう前に、疑問を問いかけた。



「ねぇ、山ちゃん？」


「ぐすっ……は、い…」


「なんで…俺に、会いたかったの？」


「……っ！」



驚く山ちゃんの肩を強く掴んで、目線を逸らされないように瞳を射止める。

そうするとバツの悪そうな顔をした山ちゃんは、耳をほんのり赤くし、ボソリと言い放った。

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