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――私が鬼舞辻の足取りを掴んだ時には、恐らくもうあの家族は惨殺されていた。
言い換えれば、愚かにも私はすでに殺されている家族に「どうか生きてて」と願いを飛ばしていたのだ。
はっ
滑稽すぎて嗤えない――…………
.
「…………」
「よォ、起きたか」
「……ここ、は」
「オレの家だ」
「……そうですか」
淡白に言葉を返す。
隣にいる女の人は命の恩人だ。
普通なら、すぐにでも助けてくれたことにお礼を述べるべきなのであろうが、そんな気にはついぞなれなかった。
頭がぼーっとする。
残酷な事実に気づき、しかし悲しいとも思えなかった。
不思議と感情の起伏が起きない。
心にぽっかりと穴が空いたようだ。
今私はどんな表情なのだろう。
とりあえず、男勝りな色を見せる女の人が押し黙るくらいには酷い顔をしているらしい。
どうでもいいけど。
状態を起こして、ただただ虚空を見つめていると、重々しい雰囲気で女の人が口を開いた。
「……お前に手紙が届いている」
そう言って手渡された手紙には、『鱗滝左近次』と書かれていた。
内容は見ずとも分かった。旅立つ前にお願いしていたものだ。
(……ああ、
一応開いてみるが、予想通りの内容ですぐに閉じた。
(……そういえばこれが来たら必ず戻るって約束してたな……)
漠然とあの時の言葉を思い出して、ふらりと立ち上がった。
「……どうした?」
「……鱗滝さんに会いに。そういう、約束なので」
「そんな格好で会いに行くのか」
それがどうした。女の人の心配を冷たくあしらう。
私が今身に
いいよ、別に。もうどうでもいい。
女を
寸前、腕を掴まれた。
「まァ待て。オレが着せてやるからこッちに来いい」
言われるまま引っ張られると、テキパキと寝間着を脱がせ、着物を着せていく。
「悪いな。嬢ちゃんの着物はまだ修復してねェからオレのお古で我慢してくれ」
着付けが終わると、そのまま肩を抱いて戸口へと誘導してくれた。
ちょッと待ッてな、と女が取り出したのは煙管。その煙管で戸口をトントンと叩く。
開けてみな、と促されて戸を引くと――そこはもう狭霧山だった。
目の前に、家がある。
鱗滝さんの、家。
「…………ぁ」
それを視界に映すと、じわ、と心が疼く感じがした。
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雛月りな(プロフ) - 華さん» コメありがとうございます!自分でもこんなに手の込んだ展開が書けるとは思っていませんでした笑。(こっからネタバレかも→)まだ伏線回収がなっていないものがあるので楽しみにしていてくださいね!…皆さんが受け入れてくれる内容かは不安があるんですけど、アハハ (2019年8月17日 10時) (レス) id: e209b0612b (このIDを非表示/違反報告)
雛月りな(プロフ) - noiseーノイズさん» 主人公ちゃん可愛い雰囲気出てましたか!?いつも「口調悪い……もっと可愛くしたい……」と思いながら書いていたので、noise-ノイズさん(名前合ってますか?)のコメント嬉しさ半分と驚き半分で読ませて頂きました!バトル楽しんで頂けて良かったです!! (2019年8月17日 10時) (レス) id: e209b0612b (このIDを非表示/違反報告)
雛月りな(プロフ) - ひにゃたこさん» ありがとうございます!これからも神でいられるように頑張ります笑。嬉しいコメントありがとうございます!! (2019年8月17日 10時) (レス) id: e209b0612b (このIDを非表示/違反報告)
華 - 凄いしか出てきません!!とても面白い展開で、ワクワクしながら見させて頂きました!!大好きです!!これからも頑張って下さい!!応援してます!! (2019年8月17日 3時) (レス) id: 2aa6dd9a8d (このIDを非表示/違反報告)
noiseーノイズ(プロフ) - よ、読みやすいっ.....!主人公ちゃん口調とか可愛い雰囲気を感じるのに物語はすっごいバトルですね!いやぁー読んでて楽しいです!更新頑張ってください! (2019年8月17日 1時) (レス) id: c4f6a2aaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛月りな | 作成日時:2019年8月5日 18時